陸上イージス停止「宮古も落下危険性」「新たに中距離弾配備か」 自衛隊「南西シフト」シンポ詳報


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陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」計画停止や、軍縮の動きを日本から広げることの重要性について話す参加者=20日、東京都

 【東京】20日に東京の鳩山会館で催されたシンポジウム「自衛隊南西シフトと新冷戦」(東アジア共同体研究所琉球・沖縄センター主催、琉球新報社共催)では、軍事ジャーナリストや本紙記者らが出席し、陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」計画停止の展望や、琉球弧への日米による「南西シフト」の実態、日米地位協定の問題などが議論された。軍拡が進もうとする中、ミサイル軍縮の動きを日本から東アジアに広げていく必要性などが提起された。講演者らの話と討論の様子などを詳報する。シンポジウムの様子は7月13、20日の動画投稿サイト「UIチャンネル」でも放映される。


<出席者>
前田哲男氏(軍事ジャーナリスト)
小西誠氏(軍事ジャーナリスト)
吉田敏浩氏(ジャーナリスト)
 ※ビデオメッセージ
新垣毅氏(琉球新報政治部長)
新垣邦雄氏(東アジア共同体研究所琉球・沖縄センター事務局)
鳩山由紀夫氏(東アジア共同体研究所理事長、元首相)


 

米と連動する軍拡/前田氏
 

前田哲男氏(軍事ジャーナリスト)

 イージス・アショアの配備計画が停止された。配備予定だった秋田県と山口県の人たちには朗報だ。自衛隊基地の配備を撤回させたのは前代未聞と言っていい。ただし、これでおしまいと考えてはいけない。ミサイル基地が日本列島からなくなるわけではない。イージス・アショアは停止しても別の形で生きながらえてよみがえる「イージス・アショアゾンビ説」を恐れないといけない。

 背景にある国際情勢の変化を知らなければならない。米国は当時のソ連との間で1987年に結んだ中距離核戦力(INF)全廃条約から離脱した。これまで中距離弾は保有も製造も配置も禁止されていた。その規制がなくなった。この動きとイージス・アショア計画停止の動きと連動していると見なければならない。

 INF無条約時代の到来で、米国側から攻撃型ミサイルを日本に置きたいという要求につながる可能性がある。さらに、それを受けて自民党内に以前からある敵基地攻撃論も出てくる。米国の中距離弾配備の動きと、それを自民党タカ派が国内政治からバックアップする流れになるだろう。夏の国家安全保障会議で提示されてくるだろう。暑い夏になるはずだ。

 イージス・アショアは白紙化されたが、それに伴って、わが国独自の敵基地攻撃能力を保有せよという声が自民党内で強まるのは間違いない。

民軽視の部隊配備/小西氏
 

小西誠氏(軍事ジャーナリスト)

 与那国から石垣、宮古、沖縄本島、奄美、馬毛島、佐世保、北九州へと南西諸島への自衛隊基地構築が着々と始まっている。警備部隊、普通科部隊ではなく、ミサイル部隊だ。琉球弧全体をミサイル基地にして中国を封じ込める構造だ。

 宮古島の部隊のミサイルは今は空だ。保良地区の弾薬庫問題がある。これだけ住宅に近い弾薬庫が地上覆土式である。全国を見ると地中式だ。有事ではすぐ破壊されてもたないだろう。

 住宅との保安距離の問題に加え、イージス・アショアと同じブースター落下の危険性がある。それが宮古、石垣、奄美で住民に一言も説明されていない。非常に重大な問題だ。馬毛島も米軍の空母艦載機訓練基地だけでなく、自衛隊の基地として位置付けられている。奄美も含め薩南諸島全体が後方支援基地と機動展開の拠点となっている。

 今後始まるのが沖縄本島への地対艦ミサイルの配備だ。

 このまま行けば琉球弧全体がミサイル開発競争の渦中にたたき込まれる。

 さらに米海兵隊、米陸軍ともに、南西諸島への対艦ミサイル配備に乗り出してくる。昨年、自衛隊の地対艦ミサイル部隊と米陸軍の部隊が共同訓練をした。

 自衛隊の南西シフトで琉球弧全体に地対艦ミサイル網を敷いて、米軍も第一列島線上に配備して島しょ戦争体制に入ってきた。

 中国を東シナ海から出さないという体制で、具体的な配備体制が共同訓練含めて始まっている。

駐留軍に国内法適用を/ビデオメッセージ 吉田敏浩氏
 

吉田敏浩氏(ジャーナリスト)

 日米地位協定の米軍優位という不平等の象徴的な存在が「横田空域」だ。横田基地の米軍が進入管制、航空管制を一手に握っている。訓練や輸送機の出入りのために米軍が管理している軍事空域だ。そのため米軍管制官の許可がないと通過できず、民間航空の安全かつ効率運航の阻害要因になっている。ニアミスの原因にもなると返還を求めている。

 日本の領空なのに、米軍が航空管制を行っている。日本側が管制できず、日本の空の主権が侵害されている。一種の占領状態ではないかと問題視する人が増えている。

 低空飛行訓練やパラシュート降下訓練などの軍事訓練のために独占的に空域を確保している。横田だけでなく、全国の空を使って米軍がルートを勝手に設定して訓練しているのが実態だ。米軍の特権を生み出しているのが日米合同委員会だ。

 駐留外国軍隊の国内法の適用は国際的な常識だ。排他的管理権を許していること自体を改め、日本の国内法を原則適用できるようにしないといけない。地位協定の改定とともに、協定の運用を国会の管理下に置かないといけない。

新冷戦の瀬戸際、東アジアで反核のうねりを 自衛隊「南西シフト」シンポ討論

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