新冷戦の瀬戸際、東アジアで反核のうねりを 自衛隊「南西シフト」シンポ討論


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陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」計画停止や、軍縮の動きを日本から広げることの重要性について話す参加者=20日、東京都

 新垣邦雄氏 先制攻撃は危険性が増すのでは。

 前田哲男氏 イージス・アショアを捨てて何を持ってくるか。ハードウエア選定で米国の新たな開発品を導入する可能性もある。シーソーゲームのように軍拡の応酬になる。INF(中距離核戦力)廃棄条約は欧州で草の根の反核運動が起こり成立の一因となった。東アジアで反核のうねりをつくっていくことも必要だ。東アジア版INF廃棄条約を中国、北朝鮮、ロシアで結ぶしかない。

 小西誠氏 一番重要なのは、米軍の中距離ミサイル配備が水面下で動いていることではないか。南西諸島から九州の配備だと、中距離ミサイルは中国、北朝鮮まですぐに到達する。ミサイル配備論は、今の日本の政治情勢や戦略から見てまずは通常ミサイルと考えられる。地上型配備は外から攻撃される。米軍には潜水艦があり、核ミサイルをわざわざ地上配備する危険性は犯さないのではないか。

 新垣毅氏 南西シフトの日米一体化が全国で広がっている。果たして米国は日本を守るのか、捨て石にされるのか。

 前田氏 尖閣諸島に対する軍事介入があった場合、米軍が拡大抑止を行使するか。それはあり得ない。南西諸島の基地に先制攻撃を受けた時、米国がロサンゼルスを犠牲にして北京を攻撃するか。これもありそうにない。吉田さんの言う地位協定を全面的に変えさせるということなら大多数の国民の支持を得られる。そこで国民合意、多数派を形成する努力を護憲派がつくらないといけない。

 小西氏 このままミサイル拡大競争、冷戦に行くのかの瀬戸際にある。安倍政権がインド太平洋戦略を打ち出し、日印、日豪で合同訓練もしている。米国の対中戦略の中の日米共同態勢だ。南西諸島は自衛隊の態勢からどんどん日米の共同態勢になっている。

 取材記者 地対艦ミサイル配備でブースターの説明が地元にない。有事に安全な場所に移動して撃つのは可能なのか。

 小西氏 宮古島で移動しながら撃つのはほとんど不可能に近い。衛星から見れば隠れる所もない。最初は住民に気を付けるだろうが、途中からは無視して、やむを得ないとなるだろう。

 取材記者 イージス・アショア撤回後、日本の防衛態勢のあるべき姿は。

 前田氏 ミサイルにミサイルをという防衛の形を取る限り、際限のないシーソーゲームにならざるを得ない。それはあまりにも愚かだ。だから欧州ではミサイル全廃の合意が成立した。答えはそれしかなく、どう説得していくかだ。

 小西氏 1980年代に反核・軍縮が起こった。ミサイル軍拡か軍縮か。冷戦に向かうかどうかの瀬戸際にある。ここで軍縮の世論をぜひ広げてもらいたい。

 新垣毅氏 世界の軍事状況を停戦状態に持っていく方法もあるのではないか。制服組同士が連絡機構をつくり、間違って相手を攻撃しないメカニズムをつくることも重要だ。日中ではまだそれができていない。

経済、環境で共同体を/鳩山由紀夫氏 元首相
 

鳩山由紀夫氏(東アジア共同体研究所理事長、元首相)

 沖縄の問題は沖縄の安全保障に終わらず、日本、世界の安全保障の問題だ。沖縄以外の皆さんが同じ思いを持つことが大事だ。

 コロナ後の世界はコロナ前には戻らない。戦争でなくてもこれだけ多くの人の命が奪われている。ナショナリズムで自国だけ良ければいいという話では片が付かない。グローバリズムもウイルスを拡大させ、貧富の格差を拡大させた問題がある。東アジアの周辺諸国が、ウイルス防疫や経済、環境問題でウィンウィンの関係になる共同体を考えたい。歴史的なさまざまな問題も解決していきながら、周辺諸国と共同体をつくろうという役割を果たす気概を持つことこそが日本の安全保障ではないか。

 そう考えれば、南西諸島で自衛隊が強化されていくのは日本にとって逆方向ではないか。ミサイル基地が配置されていくことはプラスにならない。沖縄だけではなく、日本の未来において大きな危険物だ。安倍政権後を見据え、しっかり議論し、中断・解消の方向に導いていかなくてはならない。

沖縄の問題解決が鍵/新垣毅 琉球新報政治部長

 

小西誠氏(軍事ジャーナリスト)

 世界は新冷戦の下で国際間の信頼関係が失われ、軍事の安全保障でしか平和的秩序を維持できないとの観念にとらわれている。「敵国」の脅威論をどう乗り越えるかが大きなテーマだ。軍事戦略以上に政治的力で解決していくことが重要になってくる。それを生み出すのは人々の政治への関与だ。

 新冷戦で、米中ロの三大大国を中心とする核軍拡が始まっている。その中で日本も中国包囲網の一翼を担わされることになる。

 辺野古新基地は時代遅れではとの専門家の意見をよく聞く。一方、取材で聞くと「米軍も沖縄の基地を重視している。なぜなら中国に対抗する意味で沖縄の米軍のプレゼンスは増している」という見方が強まっている。沖縄も軍拡の中に巻き込まれている。

 地元が反対してきたイージス・アショアの配備計画が停止されたのは、沖縄から見れば二重基準だ。辺野古新基地建設に反対してきているのに、政策の意思決定に反映されず、ずっと無視されている。

 新たな脅威に向き合う正当な政治が何なのかが問われている。そのことが試されているリトマス試験紙のような存在が沖縄だ。沖縄の問題をどう解決し、「非軍事化」につなげられるかだ。


<出席者>
前田哲男氏(軍事ジャーナリスト)
小西誠氏(軍事ジャーナリスト)
吉田敏浩氏(ジャーナリスト) ※ビデオメッセージ
新垣毅氏(琉球新報政治部長)
新垣邦雄氏(東アジア共同体研究所琉球・沖縄センター事務局)
鳩山由紀夫氏(東アジア共同体研究所理事長、元首相)


 

陸上イージス停止「宮古も落下危険性」「新たに中距離弾配備か」 自衛隊「南西シフト」シンポ詳報
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