政争の具になる辺野古新基地 沖縄の分断なき戦略を<佐藤優のウチナー評論>


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 辺野古新基地建設問題が永田町(政界)で再び政争の具になろうとしている。

 〈自民党の石破茂元防衛相は2日、共同通信加盟社論説研究会で講演し、米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設について「これしかない、とにかく進めるということだけが解決策だとは思っていない」と述べ、辺野古新基地における米海兵隊の抑止力維持に高速輸送能力の確保を検討することで現行計画を検証したい考えを示した。安倍政権が繰り返す「辺野古が唯一」とする方針に疑義を呈した格好だ。さらに日米地位協定見直しにも前向きな姿勢を示した〉(2日、本紙電子版)。

 次期首相候補として世論調査で石破氏の人気は高いが、自民党内の基盤は脆弱(ぜいじゃく)だ。そのような状況で、石破氏は辺野古新基地建設問題で、安倍政権と差をつけることで、日本のリベラル派への支持を広げようとしているのだと思う。ただし、石破氏が沖縄の民意に応えることができる政治家であるか否かについては、慎重に見極める必要がある。2013年11月26日に県選出・出身の自民党に所属する5人の国会議員を東京の自民党本部に呼びつけ、辺野古移設容認を強要したのは石破氏だった事実を忘れてはいけない。

 今後、自民党内で、辺野古新基地建設を断念するという声が強まってくると思う。しかし、それは沖縄の民意に応えるためではない。辺野古新基地のような杜撰(ずさん)な計画では国防力を強化できないという合理的計算からだ。今後、嘉手納統合や下地島空港の使用、キャンプハンセンやキャンプシュワブへの移設などのさまざまな県内移設案が出てくると思う。

 筆者が懸念するのは、玉城デニー知事を支持する国会議員の中に、普天間の米海兵隊を県内に分散する形で問題を解決するという発想を持っている人がいることだ。今後、辺野古新基地建設を停止するというカードを中央政府が切ってくる可能性がある。

 そして、中央政府は沖縄に「辺野古移設を前提とせず、ゼロベースで話し合いたい」というアプローチをしてくるであろう。中央政府は、海兵隊を縮小し、県内に分散移設するという案をたたき台にして交渉することに応じるであろう。それとともに、中央政府が裏から手を回して、県内の特定地域が、分散移設の受け入れを容認する声を出させるようにする。こうして、地元の同意があるという形で、県内移設を実現しようとする。

 政治の世界では、イデオロギー、利権、人的確執などさまざまな利害が錯綜(さくそう)する。翁長雄志前知事は、イデオロギーよりもアイデンティティーという言葉で沖縄人の魂をつかんだ。第18代県議会議長に就任した赤嶺昇氏は、〈玉城知事を支える「オール沖縄」勢力とは「(2013年に)建白書に結集した状況だ」と指摘。「大型選挙では勝つが、県議選で与野党は拮抗(きっこう)し、市長選でも勝っていない」と述べた〉(1日本紙電子版)。

 赤嶺氏には、複雑な政治的思惑があると思うが、沖縄政界の現状に関して、この認識は正確と思う。辺野古新基地建設を中央政府が停止した後、沖縄が分断されず、自己決定権を強化する方策を考えなくてはならない。

(作家・元外務省主任分析官)