「世界で一番いい所よ」 ジュゴンの海、みつめ続ける名護の漁師 豊かな命に感謝 きょう「海の日」


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
船を操縦する久志常春さん。地元の海は全て知り尽くす=20日、名護市安部

 23日は「海の日」。名護市安部の漁師・久志常春さん(71)は、誰よりも地元の海を知り尽くしていると自負し、こよなく愛す。幼少から海に潜り、国の天然記念物ジュゴンも何度も見詰めた。生命を育んだ海に感謝し、これからも向き合う。

 「ここはタマンの群れが来た。向こうではコブシメが産卵した。ティラジャー(マガキガイ)もいっぱいよ。世界で一番良い所よ」。安部の砂浜から小舟に乗り、久志さんは海の秘密をたくさん教えてくれた。小学校に上がる前から地元の漁師らの船に乗り、海に親しんできた。成人すると琉球政府や名護市役所などに勤め、定年退職後に改めて漁師となった。

 小学生で海に潜り、泳ぐジュゴンを10回ほど見た。生息場所を守るため、漁師の先人たちは場所について「人に言うな」と注意した。

 10代の頃、満月を迎えた干潮時の夜、同級生らと沖に向かって歩くと、親子連れのジュゴンを300メートルほど先に見つけた。母親の胸びれの間に子どもが寄り添い、授乳しているようだった。中学生の頃は網に掛かったジュゴンにも遭遇した。ジュゴンを見た感動は今も色あせない。

 安部周辺はジュゴンの餌となる海草が豊富だ。久志さんによると、至る所が「ジュゴンの通り道」だという。

 一方、安部沖から南側に視線を移すと、辺野古崎で無数に伸びるクレーンが見える。日本政府が強行する新基地建設の現場で、埋め立て工事が実施されている。安部の沖合上空にも米軍機が飛び交う。2016年12月、地元民がタコ捕りをする場所に米軍の垂直離着陸輸送機MV22オスプレイが墜落した。その部品が海中に散らばった。

 久志さんは戦後75年も続く米軍絡みの事件事故に憤り、日米地位協定などの不平等を指摘した。「日米は沖縄を公平に扱うべきだ」

 海はどのような存在かと尋ねると、久志さんは「海が自分を育ててくれた。優しく包み込む母親のようだ」と答えた。久志さんはきょうも海へ繰り出す。
 (中部報道部・金良孝矢)