<沖縄変わる風景>空手もオンライン化 技の伝授も画面越し コロナの影響、SNSで門下生に課題


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オンラインで画面越し海外の空手愛好家に形を指導する佐久本嗣男会長(右)=那覇市泊の佐久本空手アカデミー

 1億人とも言われる世界の空手人口。東京五輪の競技種目に初めて加えられ、発祥の地とされる沖縄への注目度はさらに高まっている。その神髄を学びたい愛好家が世界各地から沖縄を訪れることも多くなったが、新型コロナウイルスによる渡航制限や「3密」回避の影響から空手道場でもオンラインを取り入れるなど、運営の在り方で新たな模索が始まっている。

 「そこ重心を落とす。そう。グー(いいね)」。那覇市泊の佐久本空手アカデミー。劉衛流龍鳳会の佐久本嗣男会長が誰もいない道場で、設置されたカメラに向かって声を張り上げ、形の指導に当たっていた。画面の向こう側は沖縄から直線で1万8000キロ離れたスロバキア。オンラインでつなぎ、練習生の女性に与えた課題の形の手ほどきをしていた。

 毎年、海外から訪れる愛好家が形を習いたいと道場の門を直接たたいてくる。しかし、新型コロナで交流は停止した。入っていた道場の日程はほとんどキャンセルになった。佐久本会長の交流サイト(SNS)には「道場に行かなくても何とかできる方法はないか」という趣旨の書き込みが相次ぎ、佐久本会長はオンラインで稽古をつけることを決断した。

 指導法は、まず練習生に課題の形を与え、動画を送ってもらう。練習生の良い点や悪い点など特徴を把握した上で、オンライン稽古に入る。足の運びや重心の高さ、手の突き出し方など、その都度修正していく。

新型コロナウイルス感染予防で、顔に防具を付け練習する空手道凜道場の生徒ら=宜野湾市の大山公民館

 形の一連の動きを通して行おうとすると、カメラから見切れてしまうこともある。動きを中断し、再びカメラに写り込む位置に戻って再開しなければならない。練習生の形を画面越しで見る場合もそうなってしまう。距離感や言葉の壁なども重なり、間合いや呼吸など伝達の難しさはある。

 「抵抗感はあるが、このまま何もできないよりは、できることを進めた方がいい。画面越しでも出会えることは喜びでもある。満足度を得られるなら工夫していきたい」。佐久本会長はコロナ禍でも前向きに捉え、オンラインを随時取り入れる考えだ。それが将来的に沖縄への訪問を希望する愛好者やファンを増やすことになると信じている。

 空手道凜道場は南城市に本部を置き、宜野湾市、宮古島市、多良間村に3支部がある。新型コロナの影響で4、5月は道場で活動できず、6月上旬からようやく対面式の練習を再開した。試合の時に用いるフェースガード(顔面防具)を練習からかぶるようになった。窓を全開し、大型扇風機もフル稼働している。2人分の間隔を空けたり、防具の貸し借りを禁じたりするなど、さまざまな対策を講じている。

 自粛期間中は、無料通信アプリLINE(ライン)を使い門下生個々に課題を届けた。門下生が返信した動画を確認し、指導を続けてきた。実戦練習ができない期間はもどかしさもあった一方、オンラインを活用した練習や大会など新たな潮流も生まれた。

 道場主・仲村渠ゆかりさんの紹介を受け、桃原正舜さん=琉大付属中1年=は、国内や世界で活躍してきた選手が実施するオンライン授業に参加した。「自分では考えつかないメニューを教えてもらえる。1人だとへばってしまう練習も、オンラインの画面越しに見られながらなので乗り越えられた」と刺激になったようだ。こうした新たな取り組みに、仲村渠さんは「門下生が主体的な練習を意識できるようになった。道場が休日でも、練習できる環境ができてきた」と歓迎した。

 県外を拠点に活動する指導者から、沖縄の若手が直々に指導を受ける機会は少なかった。新型コロナの影響で実戦は少なくなったが、著名な指導者たちによるオンライン授業の機会が増えた。生徒たちの技術の向上に寄与している。仲村渠さんは「門下生のモチベーションが上がるし、指導のバリエーションも広がった」と今後も継続したオンライン授業の開催を望み、新型コロナとの“共生”を見据えた練習方法を模索する。
 (謝花史哲、上江洲真梨子)