脳外科医の不在深刻 地域医療、綱渡り状態<北部 命の現場・基幹病院設立の課題>1


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患者の脳のCTスキャン画像を南部医療センターの専門医とやりとりするという高良剛ロベルト医師=13日、名護市の県立北部病院

 名護市にある県立北部病院1階の救急センター。奥の診察室に、患者の脳のCTスキャン画像を前にした高良剛ロベルト医師(52)が座っていた。言葉の端々に、やりきれなさが残っていた。「脳の病気で緊急手術が必要な場合、中南部に搬送するため、どうしても時間がかかってしまう」

 県立北部病院に今、脳神経外科の医師はいない。常勤医の退職に伴い、2019年秋ごろに一般外来を休止。20年度から休診し、1週間に一度は臨時で外来対応をしているが、北部病院で手術ができない状態が続いている。脳血管系の病気は、一分一秒を争う。特に脳梗塞の場合、専門病院で一刻も早く正確な診断と治療をすることで、後遺症を最小限に食い止めることができる。「脳神経外科が一番深刻な状態にある。綱渡り状態が続いている」。久貝忠男院長は、北部病院が置かれた窮状に頭を抱えていた。

 県立北部病院の医師数は7月現在、定数47に対し5人足りず、医師確保に悩まされ続けている。院長自ら県外に行き、医師確保に努めるが、新たに医師が来るめどはたっていない。「北部の患者に迷惑がかからないように、医療サービスが低下しないように。現場の医師はそのことを常に考えている」

 脳神経外科の休診を前に、北部病院は新体制を決めた。北部病院で撮影した患者のCTスキャン画像を、県立南部医療センター・こども医療センターの脳神経外科の専門医が同時に確認できるシステムを採用。画像を互いに確認し、電話でやりとりしながら専門医からの指示を仰ぐ。北部病院で対応するのは救急科や内科、外科などの医師ら。救急科部長の高良医師は言う。「救急搬送の必要がある場合は、時間との闘い」。初動対応ができても「時間」への不安が常について回る。

 緊急手術が必要な場合、救急車かヘリで中南部の病院へ搬送される。陸路での搬送だと最も近い県立中部病院でも45分はかかる。そうなった場合、救急車が戻るまで往復で1時間半以上はかかる。北部の救急車両が出払ってしまえば、他の北部住民の救急搬送ができなくなる。久貝院長の心配は、この状態が今後も続くことだった。「本来なら、医療は北部で完結させないといけない。今はそれができる状態にない」
 (阪口彩子)


 人口約10万人の北部医療圏には、県立北部と北部地区医師会の同規模の急性期病院がある。診療科が重複するなど医療提供体制が分散され、慢性的な医師不足に陥っている。2病院を統合する北部基幹病院整備が動き始める。医師不足や住民が等しく医療サービスを受けられない医療格差の現場と課題を追った。