【記者解説】感染爆発、追い込まれ政策急転 経済と予防の両輪、バランス崩壊


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 政策転換は急転直下だった。県内の新型コロナ新規感染者数は7月26日の6人から28日は21人、30日は49人、31日には71人と「爆発」的に増えた。玉城知事は24日から30日までの間、3回の対策本部会議を開いた。警戒レベルを第1段階から第2段階へ引き上げたが、観光業界の強い意向を受け、県外と沖縄間の往来自粛要請は実施しないなど経済回復と感染拡大防止のバランスに配慮してきた。

不要不急の外出自粛を要請する県独自の緊急事態宣言を発表する玉城デニー知事の記者会見=31日午後7時50分ごろ、県庁

■危機管理の甘さ

 謝花喜一郎副知事は30日の共産党県委の要請で「4月のころのような全県的に休業という形ではもうないと思っている。経済を一定程度、走らせながら感染対策も行う時期に来ている」と述べていた。

 玉城知事は「感染者が2桁に上がった時(24日)から対応(緊急事態宣言)が必要になってくるのではないかという危機感をずっと持っていた」と振り返った。判断のタイミングについては「全国的にも感染が広がっている。他の都道府県も国が緊急事態宣言を出さなくても、独自で出さねばならない状況まで追い込まれていると思う」として適切だったとした。

 県幹部の一人は「こんな増え方だから、(何もしなかったら)県民は納得しないでしょう」と述べ、緊急事態宣言を出さざるを得ない状況と判断した。

 知事に近い県政与党幹部の一人は「県が目指した感染拡大防止と経済回復の両立が難しいということだ。数日以内には新規感染者が3桁の大台に乗る可能性が高い」とし、県独自の緊急事態宣言はやむを得ないとの見方を示した。

 一方、別の与党幹部は県の危機管理の甘さを批判する。沖縄・平和の仲村未央代表は「第2波が来ることを想定してホテルを借り上げておくなどの対応が遅すぎる。感染者が出なかったこの2カ月の間、県は何をしていたのか。見通しが甘すぎる」と批判した。

■政府への不満も

 県には全国各地で感染が拡大する中、政府が主導して対策を取らないことへの不満もある。

 移動や営業の自粛要請には補償が求められるが、県の財政レベルでは十分な支援は難しい。県幹部の一人は「本来は国の責任で緊急事態宣言を出してほしい。例えば休業を要請すると、一定程度補償も求められる。各自治体はみんなそれで苦しんでいる」と漏らした。

 玉城知事は政府の観光支援事業「GoToトラベル」が始まっていることもあり、県外からの不要不急の渡航自粛要請まで踏み込まず「慎重に判断する」にとどめた。県民には不要不急の渡航自粛を要請したこととは相反し、感染防止策の実効性が揺らぎかねない。

 GoToトラベルの賛否は明言せずに「政府において判断するが、逆に旅行する人にリスクを負わせてしまうことが非常に心配だ」と述べるにとどめた。

 玉城知事は会見でかすりの模様の入ったえんじ色のマスクを取り、目を潤ませながら県民に協力を強くお願いする場面もあった。「本当に大切な人を守るためには、一人一人の努力が重要です」。第1波のように感染拡大を止められるかは、県内外の理解と協力を得られるかが鍵を握る。

(梅田正覚、吉田健一、明真南斗)