安定の救急体制を切望 離島住民、重い金銭負担<北部 命の現場・基幹病院設立の課題>4


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本島への搬送を担う救急患者搬送船「みらい」。本部港まで最短12分で搬送できる=2015年4月、伊江島沖

 離島住民が本島の医療機関を利用する際、移動や宿泊に伴う負担は本島居住者より重い。伊江村では村立診療所を中心に、負担を減らすよう村民の健康維持に取り組み、急患搬送体制の充実も図ってきた。

 2006年11月、県立中部病院で長女華さんを生んだ伊江島の八前沙樹さん(41)。退院後、新生児集中治療室(NICU)の華さんに毎日母乳を与えるため、島からフェリーと陸路で片道最短2時間かけて通うか、病院近くに自腹で宿を借りる必要があった。

 いずれも負担が大きく、当時産婦人科を休診していた県立北部病院の医師と担当医が話し合った結果、北部病院が華さんを受け入れた。島から世話に通い、華さんの体重が増えた1カ月後、親子で島に戻った。八前さんは言う。「早産でも、北部で安心して生み育てられる環境が必要だ」

 その後、村は子育て支援として07年度、出産待機で本島に出る妊婦と付き添いの宿泊費1日各5500円、妊婦健診時の船賃430円の助成を始めた。15年度からは未熟児養育医療で本島に滞在する保護者の宿泊費なども助成している。

 伊江村民約4500人の急患搬送を担っているのが、ドクターヘリと救急患者搬送船「みらい」だ。急患搬送は16年度以降、年間175~194件で推移し、2日に1件ペースで誰かが運ばれている。

 海上搬送はかつて漁船頼みだった。設備や安全面で不安があったが、15年4月に救急車と同等の設備を備えたみらいを導入し解消した。17年11月の夜、くも膜下出血を起こし、みらいで北部病院に運ばれ手術を受けた真喜屋和美さん(60)は「夜間や多少のしけでも出港でき、揺れも少ない。船の体制が整って安心感が生まれた」と語る。

 09年から村立診療所で働く阿部好弘所長は、村民のかかり付け医として血圧や糖尿病などの日常的管理に力を入れてきた。「診療所に通院する島民が増え、10年前より心筋梗塞や脳血管障害の急患搬送が減った」と指摘する。14年には透析センターも完成し、島での透析が可能になった。

 気になるのは一刻を争う脳神経系の急患を受け入れてきた北部病院脳神経外科の休診だ。月1~2人を搬送していたが今年に入って受け入れが縮小。休診した4月以降、4人を中南部に搬送した。北部基幹病院に対し、阿部所長は「脳神経外科の維持と専従医が対応できる救急体制」を求める。

 島に住み続けるためにも、安定した医療は欠かせない。離島住民は北部の医療充実を切望している。

(岩切美穂)