米中外交危機 懸念される偶発的武力衝突<佐藤優のウチナー評論>


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 米中外交が危機的状況に直面している。24日、米国の在ヒューストン中国総領事館が閉鎖された。

 〈米政府が閉鎖を要求した南部テキサス州ヒューストンの中国総領事館について、スティルウェル国務次官補は中国軍による知的財産窃盗の「震源地」となっていたとの認識を明らかにした。ニューヨーク・タイムズ紙が22日伝えた。訪欧中のポンペオ国務長官も中国の知財窃盗を「これ以上許さない」と語った。/スティルウェル氏は、中国の窃盗行為がここ半年間で増えていると述べ、新型コロナのワクチン開発競争とも関係している可能性があるとの見方を示した。/中国のヒューストン総領事らが最近、空港で中国人の訪問者を迎える際に偽の身分証を使ったことが確認されたとも明かした〉(23日本紙電子版)。

 ヒューストン以外の中国総領事館もスパイ活動に従事しているという情報を米政府は流している。24日、米司法省は、中国軍との関係を隠したまま不正にビザを取得した中国人4人のうち在サンフランシスコ中国総領事館に逃げ込んでいた女性研究者の身柄を確保した事実を公表した。

 スパイを摘発した場合でもそれを公表せずに静かに処理することが多い。身柄拘束の事実を公表し、しかも総領事館の閉鎖に踏み切ったのは、米国が中国との外交戦争を覚悟しているという意味だ。

 外交の世界には相互主義というゲームのルールがある。「やられたらやり返す」ということだ。中国政府は、米政府に四川省の在成都米国総領事館の閉鎖を求めた。同総領事館は、27日に閉鎖された。閉鎖された後の総領事館は外交特権を持たない。短時間の間に書類やデータをすべて抹消することは不可能なので、今後、両国は総領事館の捜索によって押収された証拠に基づいて互いにスパイ活動を非難するであろう。

 今回の在ヒューストン中国総領事館の閉鎖をトランプ大統領の選挙対策と見ると事柄の本質を見失う。

 米高級紙「ウオールストリート・ジャーナル」は27日の社説でこう指摘した。〈1つ懸念されるのは、中国政府が米国の新たな姿勢をトランプ大統領による選挙戦略の1つだとして切り捨てる恐れがあることだ。/それは過ちになるだろう。例えば、民主党は米国の対イラン措置を厳しく批判しているものの、トランプ政権が中国政府を攻撃しても、それを支持したり、黙認したりする姿勢を示している。この新たな姿勢は、ブルーカラーの有権者から産業界および安全保障分野のエリートに至るまでの層の間で、中国があまりにも長い間、罪を逃れ過ぎているとのコンセンサスが生まれつつあることを反映している。ジョー・バイデン氏が次の大統領になったとしても、その政権は、西太平洋の緊張した状況と、米国内における中国の影響力を標的として進められている多数のスパイ防止活動や刑事捜査を受け継ぐことになる〉。

 新型コロナウイルスによる感染症が中国の武漢から拡大していたことによって、米国の一般国民の対中感情が悪化している。それが政治問題と結びつき、中国を懲罰するタイミングに至ったとのコンセンサスが米社会で形成されつつある。

 今後、懸念されるのは南シナ海で米軍と中国軍の間で偶発的な武力衝突が起きることだ。米中関係の悪化が沖縄にどのような影響を与えるかについて、県が独自の情勢分析を進める必要がある。

(作家・元外務省主任分析官)