課題検証 遅れた合意 「地元の声」反映へ<北部 命の現場・基幹病院設立の課題>5


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北部基幹病院の基本的枠組みに関する合意書に調印する玉城デニー知事。奥は我那覇仁・県病院事業局長=7月28日、名護市の北部会館

 7月28日、玉城デニー知事が名護市の北部会館を訪れ、「北部基幹病院の基本的枠組みに関する合意書」に調印した。基本的枠組みに関する協議の初会合が開かれたのは2018年1月。協議は2年以上に及び、合意までに時間を要した。

 「確認しておくべきいくつかの重要な課題が存在する」。玉城知事は北部12市町村が合意書案を受け入れた直後のことし3月、県病院事業局と保健医療部に対し宿題を課した。宿題は主に、県立北部病院と北部地区医師会病院の統合で想定される人員や収益などのシミュレーション。「公設民営」となることで、県議会によるチェックが不十分となり、県立病院間での人事異動がなくなり医療従事者の確保が困難になるのではとの指摘が県議や労働組合からあり、知事は両部局がまとめた課題を検証した。

 最終的に二つの病院で診療科が重なっていることなどから「現行の医療提供体制下で県立北部病院の医師確保は困難」との認識を示し、一つの病院として診療科や医師を集中させることで、勤務医の負担増や収益損失の悪循環が断ち切れるとみる。

 新たに立ち上がる「公立北部医療センター整備協議会」はこれまでの枠組み協議会と違って新しく琉球大学病院が入る。統合後の病院は地域医療研修などを踏まえた地域枠医師採用を想定しており、地元からは北部在住の職員が多く勤める病院を求める声が上がる。「地元の声」に配慮した形で知事は「公設民営」となる基幹病院整備に向けた協議へGOサインを出した。

 ようやく整備に向けて動き出したが「これからが大変だ」との声もある。28日の合意表明時、知事は「北部地域への中高一貫校の設置など、積極的に取り組んでいく」と強調。知事は最近になって「中高一貫校」の重要性を公に訴えるようになったが、北部首長の間では「唐突感がある」との指摘も。元々、医師確保のためには、医師の子どもの充実した教育環境の必要性が指摘されていたが、中高一貫校を北部12市町村から正式に求めたことは今までなかった。「中高一貫校整備を理由に、病院の基本構想が遅れてしまうのではないか」と懸念の声がある。

 県議会から「時間を費やした上での慎重な議論」を求める声が上がる一方、北部は「スピード感を持った病院整備を」と、前倒しで開院する必要性を強調する。今後のビジョンをどう描いていくのか。県と北部のすれ違いをなくし、円滑な基幹病院整備に向けた課題と向き合うことになる。

(阪口彩子)