[日曜の風・吉永みち子氏]GoToトラベル 悲しい旅 耐えられない


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 実は私、学生時代の夢は観光に関わる仕事に就くことだった。なぜか道を外れ競馬記者になってしまったが、観光大好きなことに変わりはない。それゆえ、コロナで需要が減少どころか消滅してしまった観光業界の今後が心配でならない。だから本来なら政府の観光支援事業「GoToトラベル」は大歓迎なのだが、今回は本当に観光業界の救いになるのかとても疑問だ。

 そもそも観光というのは、平和で世が健やかでなければ成り立たない。安全と安心があって人々は観光を楽しみ、さまざまな縁を結び、新たな発見をして人生を豊かに彩ることができる。マスクを外すな、人と話すな、近づくなと感染の危険を背負いながらの旅は、行く方も迎える方も不安がいっぱいだ。

 さらに心配なのは、それでも観光客が来れば宿泊施設や土産物店など観光関係の人は少しは助かるが、そうではない地元の人々にとってのメリットはなく、感染の心配だけが募る。そのことで観光関係の人と地元の人の間に溝ができたりしないだろうか。普段なら笑顔で迎えられるのに、最悪の場合は旅行客とのトラブルも起きるかも。旅を愛する者として、悲しい旅になるのは耐えられない。

 経済を回さなければ!という言葉を、政府関係者が錦の御旗のように口にする時、とにかく金さえ回せばいいという匂いが漂う。経済とは経世済民という言葉が起源だという。世の中をよく治めて人々を苦しみから救うという意味なのに、感染者が増えても地方に広がっても経済を回すことこそ大事。だからGoToトラベルは中止も延期もできないというのは根本が違ってると思う。

 経世済民のために国がなすべきことは、世界が懸命に取り組んでいるようにPCR検査を大幅に増やしてコロナを封じ込めながら、経済活動とそれに伴う人の動きを取り戻していくこと。その間の苦しみをみんなで分け合うために知恵を絞ること。

 だが現状は、封じ込める策はまったく講じられず、ただ民を混乱させるだけ。コロナ禍で見えたのは、この国の政治家と官僚は信じられないくらい頭が悪く心もないということ。バカな親を持った子はそれでも強く生きるしかない。国に期待するのはもう無理みたいだから。

(作家)