【OIST特別寄稿】コロナ今こそ大量検査 沖縄観光守るため県は投資を


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ピーター・グルース氏(沖縄科学技術大学院大学学長) マヘッシュ・バンディ氏(同准教授)

 ジョン・レノンの言葉に、「現実は多くを想像に委ねている」というものがあります。言い換えると、現実(そうであってほしいと私たちが想像するものではなく、物事のそのままの状態)は、多くの場合、受け入れることが困難だということです。

 米国オクラホマ州タルサで最近行われた政治集会で、ドナルド・トランプ大統領は新型コロナウイルス感染症検査の減速を求めました。大統領はインタビューで、「5000万回検査をする代わりに、2500万回行えば、感染確認の数は半分になる」と答え、FOXニュースは、大統領が、より多くの検査をすることは「より多くの感染があるように見せかける」ことだと懸念していると伝えました。

 この考え方から極論を言えば、検査がなければ、感染もないということになります。慰めとなる想像ではありますが、はっきり言ってナンセンスです。トランプ大統領の顧問は後になって、彼は冗談を言っていたのだろうと弁明しています。

 新型コロナの現実は非常に深刻であり、沖縄では特に、広範囲にわたる検査が決定的に重要です。できる限り早い段階で広範な検査を実施すべきです。検査を行うことで、感染者を隔離することができます。陽性者が分かれば、濃厚接触のあった人に警告できます。検査の導入は、感染拡大を減らす手段を手に入れることなのです。

 沖縄が現在、人口比において国内で最も多くの新規感染者を抱えていることを、私たちは憂慮しています。分析によると、日本で最も一般的な新型コロナウイルス感染症は、ヨーロッパ系統ウイルスの遺伝子の一部が変異した変異型です。科学者たちは、この変異型ウイルスの感染者のうち、かなりの数の人が無症状か、あるいは軽度の症状しか出ていないことを報告しています。これは、感染者が知らずに他の人にウイルスを渡し続けているということです。青少年においては、ウイルスをもらい、それを重症化リスクの高い人たちへも含めて拡散する可能性が約6倍高くなります。感染拡大は6月中旬以降、国内出張や観光が増加し始めたときからさらに加速しました。

 現在沖縄県民は、この変異型のウイルスに感染している可能性が高いとみられています。無症状の感染者を特定できない場合、沖縄における感染の第2波は悪化する一方です。沖縄全体に検査体制を確立して、無症状のままウイルスをまき散らす感染者を検出し、ウイルスを追跡しましょう。この広範囲にわたる検査は、現存する最速かつ最も信頼性の高いものであることも必要です。検査が遅延すれば、接触追跡が遅くなってしまいます。今日検査を受けた患者は、昨日一緒に過ごした人たちを覚えていても、過去1週間分の接触を全て覚えているとは考えにくいでしょう。

 7日に県により示された、検査に優先順位をつける方針は、医療従事者の不足と限られた資源の影響を受けていると思われますが、こうした課題は、複数人の検体・唾液を集めて一度に検査するプール検査と、データのスマート分析によって実質的に克服できます。プール検査の技術はすでに存在しています。また、財務省は、パンデミックと闘うために必要な資金に対して上限を設けないとしています。条件はそろっているのです。

 沖縄県は、大量検査実施に思い切った投資をすることが求められます。沖縄の人々の健康を守り、そして沖縄の経済にとって重要な観光業を守る方法は、他にはありません。

 マルコムXの自叙伝や『ルーツ』などの著書で知られる米国人作家のアレックス・ヘイリーはかつてこう言いました。「あなたが現実に合わせるか、でなければ、現実があなたに合わせると確信するか」