<透視鏡>急展開で県民置き去り 軍港移設北側案合意 「矛盾」露呈で正念場 県政、厳しいかじ取り


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
那覇軍港の浦添移設を巡り、会談する(左から)城間幹子那覇市長、玉城デニー知事、松本哲治浦添市長=18日午後4時2分ごろ、県庁

 那覇港湾施設(那覇軍港)を巡り独自の南側案を提案してきた浦添市の松本哲治市長は18日、県や那覇市が推す「北側案」を受け入れた。これで県と両市の3者が事実上、北側案で合意したことになる。だが浦添移設は、米軍施設の県内移設と海の埋め立てを伴い、玉城デニー知事が反対する名護市辺野古での新基地建設と重なる面もある。県政与党には移設に反対する声も多く、玉城県政は新たな難題に向き合わなければならない。

 紆余(うよ)曲折の間に軍港問題や浦添西海岸を取り巻く状況は大きく変わった。玉城デニー知事は軍港移設の計画を容認する考えを崩していない。名護市辺野古の新基地建設との「矛盾」(与党幹部)をあえて放置してきた玉城県政と与党には今後、厳しいかじ取りが予想される。

■異なる反応

 「3者で確認することではない。浦添市の考えを聞かせてもらったということだ」。玉城知事は3者会談後、報道陣から北側案を前提に進めていくことで一致したのかと問われ、明言を避けた。取材の冒頭でも「意見交換」の場だと強調。跡地利用への期待に言及した城間幹子那覇市長とは対照的だった。

 玉城知事は、与党の一部が軍港移設に反対していることから、表立って軍港移設を推進する印象を回避してきた。だが今回は浦添市の提案を受けて会談を開き、その後の取材で松本市長が北側配置の受け入れを表明したことで、3者の足並みがそろった印象が演出された形だ。

 県幹部は取材に「(会談で)与党にとって駄目なことがあったか。今日は3者で決定したという話ではない。協議会でどんな議論になるかも分からない」と合意の印象を打ち消した。

 一方、那覇市幹部は、松本氏が北側案を受け入れたことについて「ありがたい」と歓迎した。「本来なら早々に移設が進んでいたはずだ。一時止まったが、これで軍港の跡地利用も動きだすだろう」と期待した。

■野党、追及へ

 移設問題が進展することで、移設反対の声が高まることも予想される。移設を認める玉城知事には厳しい目が向けられる。自民県議は「9月の県議会が楽しみだ」と虎視眈々(こしたんたん)と構える。計画が進めば、公有水面埋立法に基づく埋め立て承認手続きが必要となる。知事が主体となって移設を認める場面となる。辺野古新基地と同じ法律に基づく審査だとして野党が比較に使う可能性が高い。

 与党県議団にとっても正念場を迎える。移設に反対の立場を取っている県議が多いからだ。玉城知事が軍港移設の計画を進めれば、各地域で突き上げられる。政党としての移設反対に向けた本気度が問われる。

 移設を容認する与党県議は「辺野古反対は県民の合意を得られるが、軍港移設は得られない。その違いは県民の利益になるかだ。翁長県政以降、移設容認は既定路線だ。知事の指導力で与党を抑えきれるかだ」と語る。移設に反対する与党県議は牧港補給地区の返還が決まるなど移設計画を取り巻く環境が一変しているとして「軍港移設や民港の必要性も含めてゼロベースで話し合うべきだ」と述べた。

(明真南斗、吉田健一、伊佐尚記)