相次ぐ高齢者のコロナ重症化と死亡 終末期の医療、介護をどうするか 医師が伝えたいこと


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新型コロナに感染した重症者に人工心肺装置「ECMO(エクモ)」を使用し治療を行う県立中部病院の医師ら(長野宏昭医師提供)

 県内では病院や高齢者福祉施設で新型コロナウイルス感染症が広がり、重症化リスクの高い高齢者の死亡が相次いでいる。人生の最終段階の医療やケアについて、自らが望む方法を前もって考え、医療者や介護チームなどと繰り返し話し合い共有する取り組みを「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)」という。県立中部病院の長野宏昭医師は「ACPは平時から行っておくべきことだが、誰もが新型コロナウイルスに感染する可能性がある今だからこそ、大切な人と話し合っておくことが大事だ」と勧める。

 ACPでは、患者の意思決定能力が低下した場合に備えて、終末期を含めた今後の医療や介護の方針、本人に代わって意思決定する人をあらかじめ決める。意思決定能力があるうちにACPを行うことで、もしもの時に、自身の考えに沿った治療やケアを受けられるようにする。長野医師は「病気が悪化した時に『急に決めろ』と言われても難しいことが多い。最期まで幸せに、その人らしく生きるためにほかならない」とACPの目的を説明する。

 県立中部病院にも高齢で介護を要する人が、新型コロナに感染して入院している。そうした人が入院する際、長野医師は肺炎が重症化した場合は救命できる可能性が低いとされていることを、家族へ率直に伝えている。高齢で体が弱った人の肺炎が悪化した場合、人工呼吸器を使って延命を試みても機械につながれた管を抜くことができなくなり、治癒が難しいばかりか、本人にとってはつらく苦しい時間が増してしまうという。

 人工呼吸や心臓マッサージ、電気的除細動などの「蘇生処置」は他の治療に比べ、体への負担も非常に大きい。長野医師は「コロナで重篤な状態になった場合にこれらの処置を希望するか、元気なころから話し合っておく必要がある」と強調する。

 ACPで話し合う内容は蘇生処置だけではなく、介護が必要になった時にはどこで暮らしたいか、食事ができなくなった場合に経管栄養や胃ろうなどの人工的な栄養を希望するのか、自分の仕事や夢など、社会的な役割を誰に託すのかなども含まれる。人生の最後に「生まれてきてよかった」と思えること、それを実現できる手段だと長野医師は言う。

 一方で長野医師は、県内でACPを担える人材は不足しており、育成が急務だと訴える。自身はエンドオブライフ・ケア(ELC)協会の認定ファシリテーターとして、医療者に加え、地域の住民にも分かりやすい内容で学習会を開催する。「どんな病気になっても、どこで暮らしても穏やかに過ごせる沖縄をつくりたい」と夢を描く。ACPに関連する質問や、講演会(zoomでも可)に関する問い合わせはELC沖縄、アドレスelc.okinawa@gmail.com (中村万里子)