【識者談話】石垣陸自配備 住民投票請求の手続き策定が急務 知恵を出し合い実現を


この記事を書いた人 Avatar photo 上里 あやめ
野口暢子長野県立大学講師

 却下という結果ではあるが、判決文には石垣市自治基本条例に基づく住民投票に関わる課題が盛り込まれており、重要な判決が出されたと思う。争点にされたことへの判断をうやむやにし、けむに巻こうとしている印象に振り回されず、この判決の内容を市民は冷静に受け止めるべきだ。

 市自治基本条例に基づき、住民が住民投票を請求する際の手続きが定められていなかったことが訴訟が却下された理由だ。市が自治基本条例に基づく住民投票に関する施行規則を定めていなかったことを、暗に批判していると言える。

 手続きを定めることを放置していた市の責任は重い。それを行政に強く求めてこなかった市議会にも問題がある。一方、原告側も地方自治法に基づくのではなく、自治基本条例に基づいて住民投票の請求をしていたら、訴訟でも手続きを策定していなかった市の責任が問われ、判決が変わっていた可能性がある。

 他の自治体でも、石垣市と同様に住民投票の請求に関する手続きを定めていないところは少なくない。今回の判決はそのような自治体にも早急に手続きを定めるよう求める、影響力のある判決となるだろう。

 4割近い有権者が署名して住民投票を請求するというのは全国的にもあまり例がなく、手続きの不備のために実施されないのは残念だ。駐屯地工事は始まってはいるが、いまだ陸上自衛隊配備計画への意見が拮抗(きっこう)している以上、住民投票を実施する必要がある。

 今回の判決を真摯(しんし)に受け止め、市や市議会、市民がそれぞれの立場で知恵を出し合って、住民投票ができる仕組みをつくるのが急務であろう。
  (地方自治論)