4月感染の70代 意識もうろう、今も心身に後遺症「命が何より大事」


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新型コロナ感染症で入院した当時を振り返る男性(本人提供)

 新型コロナウイルスの感染拡大を巡り、県内では高齢者の死亡が相次いでいる。高齢者は感染すると重症化する危険性がある。4月の「第1波」で感染した沖縄市の男性(73)は1カ月余りの入院を余儀なくされ、いまだに後遺症に苦しむ。県内では新規感染者数が減少傾向にあるなど、感染拡大のピークは過ぎたように見える。そんな中で男性は「県には命を最優先にした対策を」と訴える。

 「意識がもうろうとして、入院してからの記憶ははっきりしない」。男性は新型コロナに感染した当時を振り返る。身体に異変を感じたのは4月12日。前日に地元の会合に出席していた。朝から38度台の熱が続き倦怠(けんたい)感に襲われた。翌日、自宅近くのクリニックを受診した。症状を伝えると、県立中部病院に行くよう促された。同15日、同病院で受けたPCR検査で陽性と判明し、その日から入院生活が始まった。

 容体が悪化したのは入院翌日の16日。高熱に加え、絶え間ないせきに苦しめられるようになった。酸素吸入器による治療が必要になり「意識がある時には、せきが止まらなくて眠れなくなった」。睡眠導入剤でなんとか睡眠時間を確保し、新型コロナの治療薬候補アビガンの投与も始まった。昼と夜、1日計8錠の服用を30日ほど続けた。

 投薬治療などの効果もあり、症状は徐々に緩和した。身体の不調とともに、隔離された環境に身を置くストレスにもさいなまれた。「入院していた個室には感染リスクを恐れて医師も看護師もほとんど来ない。人との会話もなく、テレビを見ても本を読んでも頭に入ってこない。ベッドの上で1日過ごすことがつらかった」。携帯電話で家族の声を聞くのが、唯一の心のよりどころだった。

 感染が疑われる会合に出席した知人は発症後3日ほどで重症化し、亡くなった。男性を含む計8人の感染が明らかになり、県内初のクラスター(感染者集団)となった。クラスターで最初の感染者となり、亡くなった知人は、家族から感染した疑いが強いという。「知らない間に感染が広がるコロナの恐ろしさを再認識した」

 新型コロナのダメージは退院後も男性の心身をむしばんでいる。長い入院生活で筋力が衰え、今もまともに歩くことができない。息切れが目立ち、感染した経験が記憶に刻まれ、外部との接触を控えるようになった。「二度と感染したくない」。再感染への恐怖から家族以外の人との会合には、いまだに顔を出せていない。

 県は8月28日、緊急事態宣言の延長を決めた。男性は「経済も大事だが、命が何より大事だ。県にはそのことを踏まえた政策を行ってほしい」と強く訴えた。
 (安里洋輔)