アジア初の宇宙旅行拠点に 沖縄県経済へも期待


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下地島空港を活用した宇宙港事業に向けて基本合意書を締結するPDエアロスペースの緒川修司代表(左)と謝花喜一郎副知事(右)=10日、県庁

 「宇宙に行ける島、下地島」―。宇宙船開発を目指すPDエアロスペース(名古屋市)が、宮古島市の下地島空港を活用する「下地島宇宙港事業」で県と基本合意を締結した。同社によると、有人の民間宇宙旅行拠点として本格的に稼働が始まるのはアジアで初めてという。世界で急速に技術開発が進む民間宇宙旅行の拠点として、県経済への波及効果も期待される。

■急成長ビジネス

 PDエアロの緒川修司代表は「宇宙ビジネスは国内では遠い世界の話に捉えられているが、米国ではビジネスの戦場となり急速に進化している」と述べ、下地島で展開を計画する事業の実現可能性を強調する。

 海外メディアの報道によれば、米ヴァージン・ギャラクティックは2021年にも宇宙旅行を実施する方針とされる。アマゾン・コム創業者のジェフ・ベゾス氏が設立したブルーオリジン、米電気自動車大手テスラの最高経営責任者であるイーロン・マスク氏が率いるスペースXなどが、資金力を背景に技術開発にしのぎを削っている。

 世界の流れから後れを取っている日本の宇宙旅行事業だが、PDエアロがターゲットとするのはアジア周辺の超富裕層だ。

 同社は海外企業に比べ機体の製造や整備のコストを抑えられるとして、海外企業の7割程度の価格で宇宙旅行を提供できると想定している。それでも宇宙体験には1400万円程度が必要となる見込みだが、緒川代表は「米国の宇宙機には中国の人は乗れないという制約があるが、われわれにはない。アジアを中心とした顧客の獲得に動いていきたい」と構想を話した。

 下地島空港は現在、国内外の富裕層のプライベートジェット機受け入れも目指しており、将来的な相乗効果も期待される。

■経済へ波及

 3千メートルの滑走路を備える下地島空港は航空会社のパイロット訓練場として利用されていたが、訓練利用頻度の低下もあり、自衛隊による使用がたびたび持ち上がってきた。

 1971年に民間機以外は使用しないという「屋良覚書」を当時の琉球政府と国が交わしているが、今年8月にも自民党の国防議員連盟の会合で自衛隊の使用を求める意見が出ていた。

 管理者である県は、空港利活用を提案する民間事業者を募ってきた。2017年に三菱地所と締結した「みやこ下地島空港ターミナル」の計画が19年に開業を迎える成果を上げており、これに続く「宇宙港」開発に県は期待を寄せる。

 締結式に出席した謝花喜一郎副知事は「大変意欲的で夢のある提案だ。宮古圏域のみならず県全域に波及効果はある。県としても関連道路などの早期整備に取り組んでいく」と語った。

 宇宙旅行者には無重力への対応など3日ほどの訓練が必要で、空港周辺に超富裕層向けの宿泊施設を用意することも必要だという。PDエアロは、県内企業も含めた宇宙港事業推進の協議会組織を設立し、テナント事業や訓練、観光事業を展開していく。

 伊良部商工会の大浦貞治会長は「規模が大き過ぎて想像しづらいが、実現するのなら地元としては願ったりかなったりだ」と歓迎した。
 (沖田有吾)