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次期政権のリスク 予測不能なスキャンダル<佐藤優のウチナー評論>


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 複数の外国の友人から、「つい2カ月前まで、次期首相候補として本命視されていなかった菅義偉官房長官が、8月28日に安倍晋三首相が辞意表明した後、急速に求心力をつけた理由について、合理的に説明してほしい」という質問があった。筆者の暫定的な回答は次の通りだ。

 「僕は、首相機関説と名付けているのだけれども、安倍政権は7年8カ月続いているうちに、徐々にシステムとなっていった。いくつかの政治エリートのグループが、このシステムを維持することが好都合と考えている。岸田文雄元外相、菅官房長官のいずれが後継首相になっても、システム自体は維持される。いずれにせよ安倍政権と比べてシステムの強度は弱くなる。ただし、菅氏の方が、システムの弱体化をミニマムにすることができる。このような認識が政治エリートの無意識を支配している。だから、急速に菅氏が急進力をつけた」

 こう説明すると、「システムを強化する方法は何か」という再質問を必ず受ける。これに対して筆者はこういう仮説を述べる。

 「いちばん有効なのは、解散・総選挙を行うことだ。政局だけで考えると、できるだけ早い方がいい。来週(14日から始まる週)、各新聞社・通信社・テレビ局が全国世論調査を行うと思う。その結果、菅氏と自民党に対する支持率が高ければ、16日の衆議院本会議と参議院本会議で首班指名を受けた後、菅氏は解散に向けた布石を打つ可能性が十分あると僕は見ている。連立与党の公明党は、コロナ対策を優先すべきと主張し、解散・総選挙には反対すると思う。しかし、首相が本気で解散・総選挙を考えれば、それを支持せざるを得なくなるだろう」

 「11月3日に米国大統領選挙が行われるので、その結果、トランプ大統領が敗れると、その影響で菅政権の支持率が下がる可能性があるので、その前に総選挙を実施すると思う。選挙によって自民党と公明党が圧勝することになれば、来年9月の自民党党大会で、菅氏が自民党総裁に再選されることになる。その結果、システムとしての菅政権の強度が増す」

 また、「菅政権の最大のリスクは何になると思うか」という質問に対しては、こんな説明をしている。

 「スキャンダルだ。森友学園や加計学園の問題、桜を見る会の問題などは、安倍前政権の時代に起きたことと言って切り抜けることができると思う。これに対して、菅政権になってから起きるスキャンダルに関しては、それがどのような展開をするかを現時点で予測することは不可能だ。官房長官時代には見過ごされていた事柄が、首相になるとマスメディアの関心を集める可能性は十分ある。未来のスキャンダルに巻き込まれる当事者ですら、その危険について、今の段階ではまったく認識していないと思う。従って、あらかじめ対応策を準備することができない」

 「菅氏の周囲に急速に集まってきた政治家は、政権を揺るがすようなスキャンダルが起きると、蜘蛛(くも)の子を散らすように逃げていく。現時点で菅氏の苦労人の側面に光を当てて持ち上げているマスメディアも、スキャンダルが起きればすぐに掌(てのひら)を返す。このあたりの事情を菅氏が、どこまで理解しているかが僕にはよくわからない」

 竹馬であまり高く上ると、倒れたときの打撃が大きい。

(作家・元外務省主任分析官)