【深掘り】菅新首相、沖縄政策への強い関与維持か 「アメとムチ」強化に懸念も


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認証式を終え、記念写真に納まる菅義偉首相(前列中央)と閣僚ら=16日午後8時14分、宮殿・北車寄(代表撮影)

 安倍政権で官房長官を務め、2014年9月から6年間にわたり沖縄基地負担軽減担当相も兼任した菅義偉氏が首相に就任した。
 菅氏は知事選や国政選挙などで示された民意を顧みることなく、名護市辺野古への新基地建設を主導してきた。その一方で、振興予算の取りまとめにも関わり、那覇空港第2滑走路の工期短縮、火災で焼失した首里城の復元なども進めてきた。
 
 玉城デニー知事は2022年度からの新たな沖縄振興計画の策定を政府に要請する。基地問題での対立を背景に「基地負担と振興のリンク論」に言及し露骨なけん制を続けてきた菅氏が首相に就いたことで、沖縄に対する「アメとムチ」政策がさらに強まることが懸念されている。

 「沖縄の件、150億円アップ」。15年12月の東京都内。故翁長雄志県政下で副知事を務めた安慶田光男氏は菅氏と2人きりで会い、16年度の沖縄振興予算を折衝したと証言する。安慶田氏は「3500億円」、菅氏は「3010億円」を提示した。中間を取って3300億円台から交渉が本格化した。菅氏は最終的にはその場で担当者に電話で増額を指示し、3350億円で決着したという。

 菅氏は沖縄振興を所管する沖縄担当相ではないが、沖縄政策に幅広い権限と裁量を持っていた。

 当時の翁長県政は米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設に反対して国と対立を深めた。安慶田氏は菅氏とひそかに面談を繰り返し、基地問題解決の道筋を探っていたと明かす。安慶田氏は「最初の3010億ではのめなかった。そしたら県は国とけんかし続けるしかない」と菅氏に主張したと振り返る。
 その上で「沖縄振興は交渉次第だ。菅総理は他の政治家より沖縄に思いがある。だが今の県政には政府と水面下で交渉できる人材がいない」と不満を漏らした。

 菅氏が担った基地負担軽減担当相の任は加藤勝信氏が引き継ぐが、菅氏周辺は「肩書のまま、菅氏が担った役割が引き継がれるわけではない」と指摘する。沖縄担当相に就いた河野太郎氏は菅氏と近しい関係とされ、引き続き河野氏を通じて沖縄政策をグリップし続けるとの見方が強い。
 菅氏をよく知る関係者の一人は「ある意味、独占欲はある」と評する。首相になっても権限を閣僚に委譲せず、特に沖縄政策については強い関与を保ち続けるとみられる。

 菅氏が鮮明にする「リンク論」について県幹部の1人は「政府の言うことを聞くことを前提に予算を出すことはあるべきではない。新たな沖縄振興の背景や必要性を論理的に求めていく」と話した。

 菅氏は、師として仰ぐ梶山静六氏が官房長官時代に関わった米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設を実現させたいという思い入れが強い。沖縄の米軍基地問題について安倍晋三前首相自身の関心が薄かったこともあり、菅氏の関与は際立った。新政権は辺野古移設推進の姿勢を堅持する見通しで、むしろこれまで以上に強硬姿勢が鮮明になるとの見方が強い。

 安倍政権下では米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設について県民の反発を無視することで工事を始めた。軟弱地盤に対応するための設計変更、変更承認の申請と前のめりだ。

 県は設計変更を審査中だが、認めない構えだ。菅政権は法的な対抗措置をちらつかせながら沖縄振興関連で玉城知事に揺さぶりを掛けるとみられる。
(梅田正覚、知念征尚、明真南斗)