<佐藤優のウチナー評論>菅新政権の沖縄政策 米大統領選後に変化も


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 14日、自民党の総裁選挙が行われ、菅義偉氏(官房長官)が選出された。菅氏は377票、岸田文雄氏(元外相)が89票、石破茂氏(元防衛相)が68票を獲得した。

 当初、自民党の地方党員票は、石破氏に流れるとの見方が強かった。しかし、筆者はそのような見方に与(くみ)せず、地方票でも菅氏が圧勝すると見ていた。それは安倍前政権の特徴が、首相のカリスマ性に依存しないシステムで、このシステムが継承されるか否かが、自民党総裁選の争点だったからだ。

 筆者はこのシステムを大平洋戦争前の天皇機関説との類比で「首相機関」と呼んでいる。菅氏、岸田氏のいずれが総裁に就任しても安倍前政権の首相機関は維持される。その場合でも7年8カ月続いたシステムの力は弱くなる。ただし、菅氏が総裁になった方が、システムの弱体化をミニマム(極少)にできる。首相機関というシステムにとっては、菅氏はマイナスをミニマム化するのに適当な選択肢だったのだ。

 これに対して石破政権が成立すれば、システムが破壊される虞(おそれ)があった。国民の視点から解釈すると、システムが維持されれば安定が続き、破壊されれば混乱になる。コロナ禍に直面した国民は、混乱を避けたいと考えている。この国民心理を自民党の地方党員も共有していたのだと思う。

 16日の衆議院本会議と参議院本会議で菅氏が首班に指名された。組閣で興味深いのは、平沢勝栄衆議院議員が復興相で初入閣したことだ。平沢氏はかつて、公明党だけでなく、その支持母体である創価学会を激しく攻撃し、自公連立政権にも反対した経緯がある。創価学会では平沢氏に対する忌避反応が強い。平沢氏の選挙区(東京17区)では、公明党支持者が平沢氏を応援することは、現在もない。

 安倍前首相が、7年8カ月の在任中に、閣僚候補として、平沢氏が何度も挙げられたにもかかわらず、入閣させなかったのは、公明党に対する配慮と思われる。平沢氏の初入閣が自公の連携に草の根のレベルでどのような影響を与えるかを筆者は注視している。

 それ以外の閣僚は、麻生太郎財務相、茂木敏充外相を留任させたことに端的に現れているが、安倍前政権のシステムを継承している。同時に自民党の派閥間のバランスを崩さないように細心の配慮をしている。

 菅政権で重要なのは官邸人事だ。政務担当の首相秘書官に新田章文氏が就任した。新田氏は首相秘書官のみで、補佐官の役職がついていない。秘書官が、各省の局審議官、局長レベルなのに対して、補佐官は事務次官よりも上のポストだ。菅政権では、新田秘書官ではなく和泉洋人補佐官が官邸官僚を仕切ることになるであろう。和泉氏は、安倍政権で辺野古新基地建設を積極的に推進した官邸官僚だ。

 北村滋氏が国家安全保障局長に留任したことも重要だ。日本の外交も安倍前政権の政策が継承される。当面は、日本外交の要である米国との関係強化に菅首相は力を入れるであろう。菅政権の沖縄政策は、11月3日の米大統領選挙後、どのような日米関係が構築されるかによって変化する。辺野古新基地建設を菅政権が断念し、県内移設の選択肢(キャンプ・シュワブ、嘉手納統合、下地島滑走路の利用など)を追求する可能性が十分あると筆者は見ている。

(作家・元外務省主任分析官)