生き別れて再会…心の揺らぎ表現豊かに 組踊「花売りの縁」観客を魅了


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 国立劇場おきなわの組踊公演「花売の縁」(高宮城親雲上作、島袋光晴立方指導、比嘉康春地謡指導)が26日、浦添市の同劇場で上演された。1部で舞踊5題、2部で組踊を演じた。「花売の縁」は夫婦、親子の再会を描く。生活苦から生き別れになった親子が再会する場面など、不安や葛藤を乗り越える様子を迫真の舞台で来場者の心をつかんだ。

再会を喜び合う森川の子(右端・玉城盛義)、鶴松(中央・宮崎花澄)、乙樽(宮城茂雄)=9月26日、浦添市の国立劇場おきなわ
乙樽と鶴松の前で、芸を見せる猿引(左・平田智之)と猿(平田征之丞)

 幕開けは「仲間節」に乗せて乙樽(宮城茂雄)と息子の鶴松(宮崎花澄)が登場した。山原へ出稼ぎに出たまま、音沙汰のない首里の士族・森川の子(玉城盛義)を捜す旅に出る。夫に出会えるか分からない不安を抱えながら、道のりの遠さを「長金武節」に乗せて表現した。

 方々を訪ね歩き、猿引(平田智之)と猿(平田征之丞)に出会い消息を尋ねるも情報を得られない。「大願口説」の軽快な曲に合わせて踊る猿の芸を見た鶴松は「もっと見たい」と頼み込む。猿がなぎなたを手にして踊る「荻堂口説」や、「早作田節」で2人の心を慰めた。

乙樽と鶴松に森川の子の思い出について語る薪木取(島袋光晴)

 薪木取の老人(島袋光晴)と出会い、初めて森川の子のことを語り聞かされる場面では、働き者にもかかわらず不運が続き、妻子の元へ戻ることができない森川の子の境遇や人柄の良さなどを迫真の唱えで表した。近く姿を見せないことを告げると、鶴松が無念の思いを唱え、「揚七尺節」でじっくり聞かせた。

 花売りに扮(ふん)した森川の子は妻子と出会い「せんする節」を踊った。さらに「笠の段」の舞の後、乙樽の求めに応じて梅の一枝を差し出し、妻であることに気づく。言葉を失ったような表情が印象的だった。花売りに落ちぶれたことを恥じ、小屋に隠れてしまうが再び共に暮らすよう諭す乙樽のせりふも情感がこもっていた。

 歌三線は比嘉、喜納吏一、仲村渠達也、佐久田朝太。箏は赤嶺和子、笛は宮城英夫、胡弓を金城裕幸。太鼓に人間国宝の比嘉聰が務めた。

 1部の舞踊は「かせかけ」(山城亜矢乃)、「前の浜」(真境名律弘)、「瓦屋」(浦崎みゆき)、「むんじゅる」(前田千加子)、「加那よー天川」(新崎恵子、花城富士子)。
 (田中芳)