奥武島の漁業用サバニ「次世代に」 祖父から孫へ技術継承 美ら島財団が工程を記録 南城市


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嶺井藤一さん(右)の指導の下、漁業用のサバニ造りに取り組む孫の嶺井尚人さん=9月28日、南城市玉城奥武島

 【南城】サバニの造船技術を継承しようと、南城市玉城奥武島に住む嶺井藤一さん(90)と孫の尚人さん(44)は9月28日、奥武島に伝わる漁業用のサバニ造りを始めた。沖縄美ら島財団による県内各地のサバニの特徴や造船技術に関する調査の一環。サバニ造りの名人として、これまで200隻のサバニを造り、2017年に「優秀技能者」として県から表彰を受けた藤一さんの指導の下、尚人さんが汗をぬぐいながら一つ一つ丁寧にサバニ造り作業に取り組んでいた。

 奥武島で漁業を営む尚人さんは、20年ほど前から藤一さんが造るハーリー用のサバニの建造技術を学んできた。今回造るのは伝統的な漁業用のサバニ。エンジンなどを積んだ漁船が主流となる現在、県内の漁業用サバニの建造技術保持者は藤一さんを含め2人しかいない。

 沖縄美ら島財団総合研究センターの板井英伸さんは「奥武島では1990年代ごろまで、サバニでモズク漁をする方がいたが、その後は使われていない。財団としてもいち早く藤一さんの建造技術を記録し、後世に残したい」と語る。

 奥武島のサバニは潮の流れが穏やかな海域で使用するため、他の地域と比べ、水中に沈む部分(喫水)が浅く、船べりの反り返りが少ないのが特徴だ。

 尚人さんは「漁業用のサバニは初めて造るが、幼い頃から形を見てきた。自分より若い世代にきちんと継承できるよう、しっかりと造っていきたい」と意気込む。

 サバニに用いる材木は宮崎県日南市から運ばれた飫肥(おび)杉。作業開始前、飫肥杉には米と塩、酒を供え、作業の安全を祈願した。その後、尚人さんが藤一さんの指導を受けながら船の形を決める「墨打ち」をし、材木を切断した。尚人さんは「初めて造るのでどんなサバニになるか、自分も祖父も完成が楽しみだ」と笑顔で語った。

 サバニは12月末までには完成する予定。
 (金城実倫)