クラスター防止へ 検査拡充に高いハードル 国の基準あいまい、自治体は困惑


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新型コロナウイルスへの感染予防対策で手指衛生をする高齢者施設(本文とは関係ありません)

 沖縄県内の新型コロナウイルス感染症の「第2波」では、介護施設や病院でのクラスター(感染者集団)が発生し、高齢者に感染が拡大する事態となった。高齢者への感染拡大を防ぐため、政府は8月末、感染者が多数発生している地域などでは、医療機関や高齢者施設などで「一斉・定期的な検査」や地域で幅広く検査を求める方針にかじを切った。ただ、「感染者が多数発生している地域」に対する明確な数値基準は示されておらず、基準設定や検査実施は自治体へ丸投げの格好だ。県が方針に沿って検査を実施するには、基準の設定、施設や市町村との連携などいくつものハードルが想定される。

 8月の第2波では、市中での感染拡大とともに、外からウイルスが持ち込まれ、医療機関や高齢者福祉施設などでクラスターが相次いで発生した。感染者が出た高齢者施設と保健所が協議し、濃厚接触者や接触者も含め、対象を決めて検査を実施した。感染者などを隔離し、感染拡大を抑え込んだ。

 しかし、同時期に県立の医療機関に検査や患者が集中したために人員が不足し、一時は無症状の濃厚接触者を検査対象から外す事態となった。保健所でも濃厚接触者の受診調整に時間がかかるようになった。

 県は検査体制拡充を図り、民間の検査協力医療機関141カ所と契約を締結した。また県のコールセンターで紹介できる医療機関を計371に増やした。無症状の濃厚接触者への検査も9月7日から再開した。今後のインフルエンザ流行も見据える。

 一方、重症化リスクが高い高齢者への感染拡大を防ぐため、政府は8月28日、「新型コロナウイルス感染症に関する今後の取組」を発表した。

 抜本的な検査の拡充として「感染者が多数発生している地域やクラスターが発生している地域においては、その期間、医療機関、高齢者施設などに勤務する者、入院・入所者全員を対象に一斉・定期的な検査の実施を都道府県などに対して要請する」とした。さらに「感染が発生した店舗や施設などに限らず、地域の関係者を幅広く検査することが可能である」とし、県に積極的な検査の実施を求めている。

 県は国の方針に沿うとしているが、「感染者が多数発生している地域」の明確な基準が示されていないことに戸惑いも見せる。県担当者は「市町村や施設が混乱しないよう、県として基準を設ける必要がある」と話した。

 県はこれまで、施設などで感染者が発生した場合、厚労省の通知に沿って検査対象を定める対応をしてきた。新たな国の方針である「一斉・定期的」な検査や「地域で幅広く」検査することについて、県にとっては“未知の手法”となる。

 県が想定する検査需要は、1日に感染者が100人確認された場合、その最大は2900人分となる。仮に今後、全県が感染拡大地域となった場合、地域で幅広く検査ができるかについて、担当者は「難しいかもしれない」と漏らす。

 県内では連日、2桁の新規感染者が確認される中、専門家は検査体制の拡充は待ったなしだと指摘した。群星沖縄臨床研修センター長の徳田安春医師は「厚労省の政策追認や後手に回るだけではなく、経済を回すには感染を抑え込むことが重要であり、そのためには検査の拡充が鍵だ」と幅広い、積極的な検査が必要だと語った。
 (中村万里子)