「穏やかに」菅首相と沖縄知事が会談 にじむ対話解決の期待、半面で辺野古は着実推進<ニュース透視鏡>


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加藤勝信官房長官との初会談後に記者団の質問に答える玉城デニー知事(中央)=7日、首相官邸

 名護市辺野古の新基地建設を巡って対立が続いた安倍晋三政権の路線継承を掲げる菅義偉首相と玉城デニー知事との初会談は「穏やか」に終始した。だが、この7日に政府は米側と辺野古移設を推進していくことを確認したことも発表しており、工事を進める姿勢に変わりがないことも改めて鮮明にした。

 「(対話に向けた)スタートとなれば、この上なく幸いだ」。菅首相や加藤勝信官房長官との会談を終えた玉城知事は、穏やかな表情で語った。「これからはもっと密にやっていきましょうよ、という雰囲気もあった。後は沖縄側がどういうような内容でそれ(対話)を求めていくかということだと思う」とも語り、今後の議論の進展に強い期待感をにじませた。

■首相の関与

 関係者によると名護市辺野古の新基地建設問題解決に向けて対話を求めた玉城知事に対し、菅首相が「大変でしょう」と配慮を示す場面もあったという。

 この日は松川正則宜野湾市長も上京し官邸を訪問。加藤氏や杉田和博副長官、和泉洋人首相補佐官ら予定していた顔ぶれに加え、菅首相とも急きょ会談した。会議などではないにもかかわらず、首相自ら市町村長と会うのは異例だ。

 玉城知事と会談した各閣僚ともその席では温和な姿勢を貫いた。政権が沖縄に寄りそう姿勢をアピールするとともに、沖縄の基地負担軽減や振興に関するテーマに対し、首相に就いた後も引き続き菅氏が関わり続けていく姿勢を印象付けた形だ。

 だが、玉城知事には辺野古について言及しなかったという岸信夫防衛相は、同日午前にエスパー米国防長官と電話会談し、辺野古移設を含めた米軍再編計画を着実に進めるため「緊密に協力」していくことで一致した。玉城知事との会談に先立ってのことだ。県民の民意や軟弱地盤の存在といった問題をよそに工事を進める姿勢を鮮明にした。

■頼みは全国世論

 県政野党県議の一人は「全国に先駆けて知事と会った。沖縄に対する配慮がにじむ」と菅首相の姿勢を評価しつつ、名護市辺野古新基地建設問題については「進展はあり得ない」と否定した。

 翁長雄志前知事が就任した当初、官房長官だった菅首相を含めて政権幹部らが会談にさえ応じなかった。「その時よりは数分でも会ってくれただけましだ」。県関係者の一人はそう受け止めつつ「申し訳程度に形を整えただけだろう」と指摘した。

 今後の対話に期待感をにじませた玉城知事だが、具体的な議論の進展は見通せない。日米両政府に県を加えた3者での枠組み「SACWO(サコワ)」の設置などを求め続けているが、実現していない。

 かたくなな政府に対し、対話を求める方針に限界が見えているとの指摘もある。玉城知事は、自身の公約として設置した万国津梁(しんりょう)会議の提言書を活用する方針を繰り返し示しているが、7日の閣僚らとの会談では提示した形跡はない。

 知事に近い与党幹部は「今日はあいさつしただけで(本格的な議論は)これからだ」と話した。「政府は聞く耳を閉ざしている。耳をふさぐ両手を取り払わせるのは、全国世論しかない」と述べ、日本学術会議の任命拒否問題などを踏まえ、政権の強権的手法を追及する考えを示した。
 (知念征尚、明真南斗)