玉城・菅会談と那覇軍港  知事支持者の亀裂謀る<佐藤優のウチナー評論>


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 中央政府の沖縄に対する姿勢に変化の兆しがうかがわれる。7日、東京の首相官邸で玉城デニー知事が菅義偉首相と会談したが、中央政府が玉城知事の対話路線を拒絶しないというシグナルを出した。

 〈菅首相との会談は首相就任後初めて。米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設問題について「対話による解決を求める」として、政府と県による協議の場の設置を求めたが、菅首相から明確な回答はなかった。/(中略)菅首相と知事の会談は報道陣には完全非公開で行われた。/会談後、玉城知事は「6~7分程度だったが、腹を割った話ができた」と話した。7月以降、新型コロナウイルス感染拡大の「第2波」で受けた影響や県の対策の状況について報告したほか、来年度で期限を迎える沖縄振興特別措置法に替わる新たな振興計画についても話し合ったという。玉城知事によると、菅首相は「(沖縄振興について)引き続き連携して取り組んでまいりましょう」と応じたという。/また玉城知事は、菅首相の官房長官在任時の実績として、浦添市の牧港補給地区(キャンプ・キンザー)の一部や、宜野湾市の米軍キャンプ瑞慶覧・西普天間住宅地区、東村と国頭村の北部訓練場の一部の返還を実現させたことを挙げた。/その上で「高く評価する」とし「引き続き努力をお願いしたい」と期待を寄せた。政府と県との懸案となっている普天間飛行場の移設問題についても「対話で協議をさせていただく」とした〉(8日本紙電子版)。

 この記事では言及されていないが、筆者がもっとも関心を持つのは、米軍那覇港湾施設(那覇軍港)の浦添市移設問題だ。8月に松本哲治浦添市長が代替施設北側配置案の受け入れを表明したことにより、移設が現実味を帯びてきた。9月の浦添市議会では興味深いやりとりがあった。

 〈西銘健氏(共産)は「市長は那覇のメリットと浦添のデメリットをてんびんにかけて、那覇のメリットを選んだ。『どこの市長か』と問いたい。市民の立場に立つのであれば、軍港は要らないと明確に言うべきだ」と批判した。松本市長は「国も那覇市も沖縄県も足並みそろえて軍港移設を容認している。浦添市だけデメリットがあるからと言って固辞できない」と反論した〉(1日本紙電子版)。

 中央政府が、県が那覇軍港の浦添移設を受け入れたことを肯定的に評価する姿勢を大きく打ち出せば、玉城知事を支持する勢力に亀裂が入る。そして、「県は辺野古の埋め立ては認めないが、浦添の海の埋め立ては認めるのか」という問題が争点化する。

 辺野古新基地の建設は、軟弱地盤のために技術的に不可能だ。そのため辺野古を諦め、県内の別の場所に移設先を求める必要がでてくると中央政府の一部の人々は考えている。そのときに備えて、辺野古新基地建設には反対するが、那覇軍港の浦添移設を容認する勢力を今から育成しておく必要があると中央政府の「沖縄通」ならば考えるであろう。

 そのためにも菅政権は、このタイミングで玉城知事の対話路線を拒絶しないという姿勢に転換することに意義を認めているのだと思う。

(作家・元外務省主任分析官)