知事、軍港で「方針転換」 知事と官房長官会談 加藤氏 宜野湾、名護と融和前面 


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 玉城デニー知事は、沖縄基地負担軽減担当相を兼ねる加藤勝信官房長官との面談で、米軍那覇港湾施設(那覇軍港)の浦添市移設について軍港の先行返還に初めて言及した。軍港移設を巡っては、8月に松本哲治浦添市長が代替施設北側配置案の受け入れを表明し、議論が加速する中、那覇、浦添両市との今後の協議に波紋が広がる可能性もある。一方の加藤氏は就任後初めての来県で首長らと相次いで面談し、米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設に関わる名護市や宜野湾市との融和ムードを前面に打ち出した。

■「返還という言葉」

就任後、初めて沖縄を訪れた加藤勝信官房長官(左)と会談する玉城デニー知事=10日午後、県庁

 「民港の施設が完成してその先に軍港を造るのは、明らかに時間がかかるのは間違いない。遊休化している那覇軍港は、施設の建設よりも返還のめどが立ちやすいのではないか」

 玉城知事は加藤氏との面談で「沖縄の振興にとって非常に重要である」として、那覇軍港の先行返還を求めたと説明した。

 県議会の答弁でも、浦添ふ頭地区の民港の計画の方向性を策定した後に、軍港移設の議論が進むと繰り返してきた玉城知事。突然の「方針転換」に、記者団からは「なぜこのタイミングか」「遊休化するものを移設する必要性はどこにあるか」と質問が相次いだ。

 一方、知事に近い与党県議は県政与党内に軍港移設に根強い反対論があるため、「返還という言葉が前面に出ることで与党も足並みをそろえやすい」と語り、以前から県三役に働き掛けていたと明かした。

 ただ、軍港移設と辺野古新基地建設反対との整合性や、玉城知事が管理者を務める那覇港管理組合の意識調査を巡り、県政野党の自民党の批判が強まっており、今回の知事の発言で一層追及が激しくなる可能性もある。

■3回目の対面

 「きれいですね」。松川正則宜野湾市長は市役所を訪れた加藤氏の長袖のかりゆしウエアを褒めるなど終始融和的だった。松川市長が上京した7日、那覇市で加藤氏を囲む会合があった9日に続き、市長と加藤氏が会うのは今週だけで3回に上る。

 加藤氏は普天間飛行場の早期返還を誓い、キャンプ瑞慶覧・西普天間住宅地区跡地開発の支援を約束した。松川市長は辺野古移設について「工事も進み、容認せざるを得ない」と、国の施策に理解を示した。市幹部は加藤氏との関係構築ができたとして「今後の市と国の関係性も大丈夫だろう」と胸をなで下ろした。

 名護市辺野古区の古波蔵太区長は加藤氏との懇談の席で、米軍基地の騒音に悩まされている現状を訴えた。加藤氏の印象を「沖縄のことを気に掛けてくれていると感じた。一生懸命対応する姿勢を示してくれた」と話す。

 報道陣に日程は公開されなかったが、加藤氏は那覇軍港の移設先である浦添西海岸も視察した。松本市長がこれまでの経緯などを説明し、キャンプ・キンザー返還や西海岸開発、軍港問題について今後も協力を求めたという。

 加藤氏は日程終了後の記者会見で、県内移設を条件とする基地の再編統合について問われ、「大事なことは計画していることを一つ一つ実行していくこと」と説明し、普天間飛行場や那覇軍港の県内移設との切り離しを否定した。「(計画を)実現していくことがむしろ早道ではないかと思う」と述べ、基地負担軽減担当官房長官だった菅義偉首相の姿勢を堅持すると強調した。

(座波幸代、金良孝矢、岩切美穂、荒井良平)