「夜討ち朝駆け」ではなくzoomで 画面越しの思いくみ取るオンライン取材<新型コロナ取材ノート>


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新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、「ズーム」アプリを用いてオンライン取材を行う稲福政俊記者=2日、那覇市泉崎の琉球新報社

 「配信だと画面の向こうにたくさんのお客さんがいるが、(曲が終わると)シーンとなる。これが心に刺さる。準備も、頭の切り替えもできない」。コロナ禍で3月以降の全国ツアーが無期限延期となったメジャーアーティストが10月、配信ライブを振り返り、久しぶりに観客を入れたホールで語り笑いを誘った。

 芸能面には、音楽や芝居など公演記事が並ぶ。記者にとっても観客の反応は、主観に頼り過ぎず舞台の雰囲気を伝えるための大切な要素だ。しかし4月の緊急事態宣言前後から公演は相次いで中止され、開催しても無観客で配信形式が中心となった。そのため、一般視聴者同様に配信される公演を見て記事を書くことが増えた。配信取材では、舞台の雰囲気に変わり、主に曲とアーティストの関わりを中心に記事を仕上げたが、やりにくさがあった。

 一方、なんとか画面の向こうに熱を届けようとするアーティストのパフォーマンスに胸を打たれたことが何度もあった。県出身アーティストはアップテンポな曲に乗り、汗が滴る額を拭うことなくカメラを凝視し「今が我慢だ。一緒にコロナを乗り越えよう」と呼び掛けた。懸命な姿に「自分の記事は読者に熱量が伝えられているか」と自省を迫られた日々でもあった。

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 5月28日、記者のパソコン画面には沖縄科学技術大学院大学理事のジェームス比嘉さんが映し出されていた。比嘉さんはアップル創業者の故スティーブ・ジョブズの右腕と呼ばれていた人物だ。ビデオ会議システム「Zoom(ズーム)」を使い、米国にいながら「世界のウチナーンチュ」をテーマに熱い思いを語ってくれた。

 コロナ禍でなければ、比嘉さんの来県を待って取材する予定だった。しかし、オンラインなら地理的な制限はない。取材の可能性が広がったことを実感した。

 余談だが、比嘉さんは在宅勤務の企業で使われているチャットツール「Slack(スラック)」の立ち上げに関わり、コロナ禍でのコミュニケーション革命にも一役買っている。

 日中の取材では聞けない情報も「夜討ち朝駆け」ではなくズームで入手した。取材相手は画面共有機能で資料も提示してくれた。音声だけの電話より理解は深まる。自宅に押し掛けずに済むので、相手方に迷惑も掛けない。これまで対面でしかできないと思い込んでいたが、実は違った。

 全てが代替可能とは思わない。バーカウンターの横の席、雨降る夜道。同じ空間を共有することで生まれる信頼関係もある。今、オンライン取材は対面の代替だが、収束後は選択肢の一つに加えたい。

  (藤村謙吾、稲福政俊)

 (おわり)