まーちゃんの視線 笑いつつ新聞の「質」問う <おきなわ巡考記>藤原健(本紙客員編集委員)


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 記事を読む声の音階をあげて「へーっ」と驚いて感心し、息を低めて「ほーっ」と納得する。沖縄のお笑い芸人、まーちゃん(小波津正光さん)はひょっとして、新聞と会話しているのではないか。紙面を解説し、感想を話し始めると、新聞の魅力が一気に倍加する。

 まーちゃんは演劇集団FECで「お笑い米軍基地」を企画し、脚本を書き、演出も手がける。人間の尊厳を無視する基地の本質をコントでわかりやすく伝え、観客の憤り、怒り、時には泣きたくもなる気持ちを、笑いを介して引き出していく。昨年11月からは毎週水曜日、那覇市泉崎の琉球新報社1階エントランスを舞台にライブイベント「ちょい呑み処『お笑いニュースペーBar』」を開いている。きょう21日も上演予定。どんな内容になりそうか、前回の14日、ちょっとのぞいてみた。

 その日までの1週間に琉球新報紙面に掲載された記事をいくつか選んでパソコンを通じてスクリーンに映し出す。四つ子のヤギの赤ちゃんがほほえんでいるように見える写真と記事(11日付小中学生新聞「りゅうPON!」)。「かわいいねえ。もっと、もっと目立つ扱いにして、琉球新報の看板にすればいい」。ほのぼのとした話題と軽妙な語り口が続いた後は、「糸満・遺骨収集ルポ」(13日社会面)。沖縄戦遺骨収集ボランティア「ガマフヤー」代表の具志堅隆松さんの活動に記者が同行した記事に焦点を当てた。

 この糸満市と八重瀬町から採集した土砂を名護市辺野古の新基地建設工事の埋め立て用に搬送する計画を、具志堅さんは強く批判している。戦争で亡くなった人の血や肉が染みこんだ土や石を、新たな軍事基地建設に使用するのは人間のやることではない。記者が書いた具志堅さんの胸の内を、まーちゃんは「この言葉は重い。なんか、伝わってきますよ」と大きくうなずく。

 遺骨収集を題材にした、まーちゃん作のコントがある。

 「新オキナワンヒーロー」として「遺骨収集戦隊」が登場する。「その最大の敵は…」と観客を身構えさせた後、「それは…暑さ」と予想された答えを外して笑いを取る。「それでは、必殺技は…」と調子づく。何だろう。超人的な能力だろう、と観客の想像力を縦横に飛ばせておいて、しかし、正解は「そんなものはありません」。なぜか。「必ず殺すなんて、戦争でしょう。戦争をなくしたい。だから必殺技など、ないんです」。虚を突かれて一瞬、静まる観客席。一拍おいて、そうなんだ、という共感が会場を覆う。力の入った笑いが広がる。

 2004年8月13日のことを、まーちゃんは胸に刻んでいる。米軍ヘリが沖縄国際大学に墜落、本館に衝突して炎上した。戦場を思わせる大事故。だが、日米地位協定を盾に警察も、消防も、県も、自治体も、メディアも現場への立ち入りを拒まれた。

 この日、まーちゃんは30歳の誕生日を東京で迎えた。翌日、愕然(がくぜん)とした。本土の新聞はアテネ五輪の開幕を「平和の祭典」として最重要ニュースのように扱った。沖縄の新聞はヘリ事故でいっぱいなのに。沖縄の芸人としても基地と正面から向き合わなければ。東京の人も現状に関心を持ってほしい。強い想いがわき起こってきた。翌年、「基地を笑え!お笑い米軍基地」を沖縄と東京で開く。以後、毎年、開催を重ねている(今年はコロナ禍で無観客開催)。

 まーちゃんはコントの素材を、あくまでも新聞に求める。14日の「ニュースペーBar」でも共同通信の元論説副委員長が首相補佐官に任命されたことの是非(12日付「東京新聞提供『こちら特報部』」)を取り上げた。「権力の監視はどうあるべきか」という新聞を含むメディアにとって欠かせない問いは、実は、米軍基地を笑い飛ばしながら、奥に潜むコトの本質をしっかりと見極める取り組みと重なり合うのだ。笑いを引き出すその視線は、新聞の「質」をも見据えているようだ。新聞がわかりやすく状況を読み解き、歴史の意味と背景を理解しやすい言葉できちんと向き合っているかどうか、である。
                                   (元毎日新聞大阪本社編集局長、那覇市在住)