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高跳び徳本鈴奈、飛躍の予感 「悔しい」気持ちもプラスに<ブレークスルー>


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
「日本代表になりたい」と力強く語る走り高跳びの徳本鈴奈

 9月の全日本実業団対抗選手権と10月1日の日本選手権で2位に入り、全国で存在感を増す陸上女子走り高跳びの徳本鈴奈(24)=那覇西高―福岡大出、友睦物流。いずれも自身が持つ県記録1メートル80に満たない高さで表彰台に立ち「まだまだ」と自己評価は厳しいが、昨年末からの冬季練習を通し社会人2年目にして高いレベルで安定感を発揮している。日本選手権後、自身として初めて日本陸上競技連盟から準強化対象競技者に指定された。目標とする県記録の更新や全国優勝、日本代表入りに向け鍛錬に余念がない。

■助走速度の向上

 注力したことの一つが助走の改善だ。以前は「自分流だった」というが、元走り高跳び選手の後間英生監督や陸上部の仲間からの助言を受け、足裏全体で地面を捉える走り方を模索。地面からの反発力をより跳躍力に昇華させることができるようになった。

 もう一つの変化がフォームだ。大学時代は助走の腕の振りのまま跳躍に入る「ランニングアーム」だったが、社会人になってからバー側の腕を上げ、踏み切り後はその腕の軌道に体を導くように跳躍する「シングルアーム」に変更。この種目では身長が164センチと小柄なため「ランニングだとバー側の腕が下がりやすいけど、シングルは腕で体を上に引っ張り上げるイメージ。これで安定してきた」という。

 課題も冷静に分析する。「(バーを越えた時に)頭をもっと落とせれば、その重みでバーの上で体が浮く」とさらなるフォーム改善を見込む。精神面でも成長の必要性を感じており、1メートル75で銀メダルを獲得した日本選手権では「試技の合間も跳躍のイメージをし過ぎて最後に集中力が切れてしまった。オン、オフの大事さは勉強になった」と振り返る。

 「今ならいつでも県記録を更新できる」と評価する後間監督も伸びしろに目を向ける。「体を上に引き上げる上体の筋力を鍛え、もっと強い踏み切りができれば常に1メートル80を跳べる」と太鼓判を押す。

■アジア出場へ

記録更新を目指して練習に取り組む徳本鈴奈=27日、糸満市西崎陸上競技場(大城直也撮影)

 糸満市立兼城中ではバスケットボール部だったが、当時からジャンプ力に優れ那覇西高で本格的に走り高跳びを始めた。高校3年で1メートル76を跳んで全国総体に出場し、大学2年で現在の県記録である1メートル80を記録。ただ卒業前は「海外で働くとか、やりたいことがたくさんあった」と就職活動し、県内のリゾートホテルに内定をもらっていた。

 しかし、友人に「自分は日本一を狙える位置にすら立ててないけど、鈴奈は狙える。自分なら絶対続ける」と言われ、気持ちが変わった。「日本一を取るのは今しかない」。大会に出場するために帰沖した2018年の秋、「もっと記録を伸ばせる力がある。うちに来い」と誘ってくれていた後間監督に入社の意思を伝え、翌19年の春から友睦物流に所属した。学生時から全国で頂点に立ったことがないため「全国大会で優勝したい」と意気込む。

 最近は県勢の後輩たちの活躍も発奮材料だ。今月の全日本中学生通信大会では比嘉桃花(石垣中3年)が1メートル66で頂点に立ち、U20全国大会では岸本志恵(中部商―日本女子体育大1年)が1メートル73で優勝を飾った。「いい刺激になっている」と頬を緩める。

 国内トップ選手として「今日本の女子走り高跳びはレベルが高くない。悔しい」と自戒を込める。日本記録の1メートル96は19年前に樹立された高さであり、近年は1メートル80台を跳べる選手も極めて少ない。切磋琢磨(せっさたくま)しながら「みんなでレベルを上げたい」と奮い立つ。日本選手権で2位に入ったことで、来年5月に中国で開催予定のアジア選手権に出場可能性があると言い「日本代表になりたい」とより大きなステージも見据えた。

(長嶺真輝)