人工知能(AI)ロボットの東京大学合格を目指すプロジェクト「ロボットは東大に入れるか」で知られる国立情報学研究所の新井紀子教授が今月中旬に来県し、県立球陽中など県内各地での授業や講演会で、子どもの学力向上には読解力が必要だと訴えた。県が実施する学力向上対策の問題点や、読解力を上げるために必要な学習方法などについて新井氏に聞いた。
―沖縄県の学力向上対策をどう見ているか。
「小6の学力テストの順位を上げるため、A問題(基礎的な知識を問う問題)に似たプリントをやらせてしまっている。小6の順位向上には即効性があるが、副作用として読解力が伸び悩んだ。伸び悩んだ結果、中3の順位は上がっていない。A問題の対策をした自治体の多くが抱える問題だ。学力テストは正式には学力・学習状況調査といい、現状を知る手段だ。それを目標に据えてしまうと、点数を取ることに最適化した教育になる」
「小学校の中学年くらいで、しっかりノートが取れてまとめが書けるという目標は正しい。しかし、何を目標にするか明確でないと型の押し付けになる。型だけになると手段が目的化するので、たいてい失敗する。授業の板書についていくには1分間に何文字書かないといけないのか、そのスキルを身に付けるにはどうすればいいのか、論理的に構築しなければならない」
―学力向上のために必要なことは何か。
「調査結果によると、中3の学力はリーディングスキルテスト(新井氏が開発した読解力テスト)の能力値と高い相関関係がある。教科書を読めるかどうかでその後の伸びが決まり、教科書をしっかり読める順に高い偏差値の高校に入っている。中学入学時点で教科書を読めるようにすることが大事だ」
―読解力を身に付けるために、家庭や学校でできることは何か。
「小学校入学時点の語彙(ごい)量が十分でないと、そこからつまずく。子どもは基本的に大人の会話から語彙を学ぶ。親が高学歴で会話の豊かな家庭は語彙が増える。そうでない家庭で語彙を補うためにできることとしては、ドラマや時代劇を見ることが挙げられる。親が一緒に熱中して見てほしい。お笑い芸人が並ぶバラエティーは同じ言葉しか出てこないので適さない」
「学校は、児童生徒が教科書を読めているという幻想を捨ててほしい。『ちゃんと読めば分かる』や『しっかり問題を読むように』という指導は、指導になっていない。科学的なデータをもとに指導が行われていないことが非常に大きな問題だ」