[日曜の風・吉永みち子氏]国会論議 気づかぬ間に消える氷


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 アメリカは、トランプ政権が続くのか変わるのか世界が注目する大統領選が目前。一足先に政権が変わった日本ではやっとこ国会が開かれた。

 4年前よりトランプの幼児性は一層磨きがかかり、もう言いたい放題。マジか! とたまげることは毎度だけれど、頭の中と口が見事なまでに直結しているからわかりやすいと言っちゃわかりやすい。この男に任せておいたらエライことになるとわかる人はわかる。

 超大国の選挙とは思えない混乱に、オバマ前大統領は「この悲劇と困難と恐怖を、人々の目覚めの重要な機会にしよう」と呼びかけた。人々が目覚めることができるのは、トランプが本音むき出しのある意味正直すぎる吠(ほ)え方をして、そこら中を派手に壊しまくるから。何が壊され、その結果何が奪われるのか明らかにしているからだ。

 ひるがえって日本。政権が変わっても意味不明のご飯論法で言い逃れる、都合の悪いことは答えないという態度は変わらず、暖簾(のれん)に腕押し、糠(ぬか)に釘状態のストレスフルな国会風景。野党が追及している日本学術会議の任命拒否に関しても、名簿を見ていないと言っていた菅義偉総理の前言がいつの間にか自ら判断したと変わっていた。名簿を見ないで判断などできないのが常識だから、どっちかの発言がウソになる。とにかく拒否した理由は絶対言えないらしくあれこれ言い訳を繕い、問題ないと装う。

 しかし、ナンダカンダと政府の方針に異議を申し立てる学者は、政権にとっては厄介な存在だから排除したいんだろうと国民はすでに拒否の理由を知っている。トランプなら「言うこときかない奴(やつ)らをなんで俺様が任命しなきゃならないんだ。ウザいからだよ」と言っているだろう。

 私はトランプが再選されないことを祈るひとりだが、日本の陰湿で不毛なやりとりよりは問題点や将来に残す禍根が明確になってうらやましさも感じてしまう。

 氷が割れるようなはっきりした変化は誰でも気がつくが、氷が溶けるようなジワジワした変化は、危機を感じることもなく将来何をもたらすのかも気づかずにズルズルと進んでしまう。気がついた時には、確かにあったはずの氷は消えているということにならなければいいのだが…。

(作家)