「苦手分野の克服より、得意分野の向上を」 前日銀那覇支店長が語る沖縄経済の展望


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県経済の展望について語る日本銀行の桑原康二前那覇支店長=10日、琉球新報社

 新型コロナウイルスによって県経済への打撃が長期化している。県経済が好調だった2018年5月に就任し、9日付で日本銀行那覇支店長から同行本店総務人事局へ異動した桑原康二前支店長に、約2年半の任期を振り返って県経済の展望や産業の課題を聞いた。

 ―県経済の現状をどう見ているか。

 「長年経済分析はしてきたが、(コロナ禍で)沖縄県の場合は景気が悪くなるというより、経済活動が瞬時に蒸発した。コロナの影響は地震や災害と違い、人の移動が止まった災害だ。コロナ前の沖縄は東京と並んで全国で一番景気が良かったと思うが、人の移動が前提の観光やサービス業が産業構造の大半を占めているため、全国で一番ダメージが大きかった」

 ―「雇用と所得の前向きな好循環」が大切だと訴えてきた。県経済の課題は何か。

 「着任当初、企業がもうけきれていないと感じた。好景気で雇用と所得は徐々に改善してきているが、本来ならばもっと改善できると思っている。生産性を上げ、稼ぐ力を向上させていれば、雇用も上がり、従業員への分配ももっとできただろう。雇用と所得が全国平均よりも低いことこそが県経済の抱える課題であり、収益力を改善させる余地があるという構造的課題を如実に表している」

 ―県経済の今後についてどう考えるか。

 「製造業を増やすことの必要性が言われてきたが、電力や水、物流の面でハンディキャップが出てくる。観光やサービス業を主体に経済を回していくことが現実的な成長戦略で、その考え自体は間違っていない。選択と集中という意味では、苦手科目の10点を20点に上げるより、得意分野の観光を80点から90点、100点に上げていく方が、県全体のコストパフォーマンス、経営資源の配分としてはいいのではないか」

 ―県内金融機関の再編について、どう考えるか。

 「再編は選択肢の一つであり、個々の金融機関の経営判断だと思う。ただ、沖縄の場合は、今すぐに再編にはならないのだろうと思っている。向こう10年の沖縄は人口、企業、世帯が増えると見込まれ、金融機関の経営基盤の面で他地域よりも恵まれている。ただ、10年後は沖縄も同じように人口減少などの構造的な問題に直面する。大事なことは、今すぐに再編というよりも、来たるべく10年後に備え、個々の金融機関が強固なビジネスモデルをつくり、収益力を高める努力をしていく必要がある」

 「地域金融機関の使命は、地域経済を発展させることであり、逆に地域経済が発展しないと地域金融機関の経営は影響を受けるという一蓮托生(いちれんたくしょう)の関係にある。県内金融機関で象徴的なのは、沖縄銀行が地域総合商社の創設を進め、琉球銀行もファンドを組成した。いずれも地域の企業をサポートし、地域経済を活性化させる意欲的な取り組みだと思っている」

(聞き手 池田哲平)