prime

バルセロナで「サッカー指導者の道」盛吉健吾 リーガ3部でアナリスト<ブレークスルー>


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
スペイン・バルセロナで指導者の勉強を続ける西原町出身の盛吉健吾さん=10月12日、北谷町内

 “リーガ・エスパニョーラ”の愛称で親しまれるスペインサッカーリーグ「ラ・リーガ」。プレミアリーグ(イングランド)などヨーロッパ5大リーグの一角で、日本代表の久保建英(ビリャレアル、1部)らトップストライカーが参戦する群雄割拠のリーグだ。そのラ・リーガ3部のチーム「Hospitalet(オスピタレット)」でプロの指導者を目指して奮闘する沖縄の若者がいる。西原町出身の盛吉健吾さん(25)だ。チームの戦力・戦略分析を担当するアナリストとして活躍している。オスピタレットは地元カタルーニャ州でリーグ1部のFCバルセロナ、2部のRCDエスパニョールに次ぐ位置付けにあるチーム。昨季、3部昇格を果たし、盛吉さんも貢献した。「信じられないほど恵まれた環境でサッカーに関わることができている。全てが経験になっている」と高いレベルでさまざまなものを貪欲に吸収している。

■新たな夢追い渡欧

 

 琉大付小3年でサッカーを始め、琉大付中、西原高、京都学園大(現・京都先端科学大)で競技を続け、プロを目指した。

 しかし、大学では試合に出られるかどうか、という実力。「自分よりうまい人にプロなんて無理だと言われ、笑われていた」。周囲の言葉にあらがってきたが「もう限界かな」と大学2年で諦めた。

 それでもサッカーから離れる選択肢はなかった。「できるだけグラウンドに近い位置に立っていたい」と指導者を志す道へと切り替えた。指導法などを学ぶためイギリスにも留学し「(プロを諦めて)挫折した不安はあったけど、わくわくした」と高揚した気持ちで指導者の道へ歩み始めていた。

 京都の大学在学中に指導者C級ライセンスを取得し、フットサルC級ライセンスの資格も取得。卒業後は理論がより体系化されているスペインで学ぶことを決めた。18年9月、スペイン・バルセロナへ飛んだ。

■大抜てき

分析担当として支えるチームが3部昇格を決め、仲間らとピッチで喜ぶ盛吉健吾さん=7月25日、スペイン・カタルーニャ州(球団提供)

 語学学校でできた縁から、18年10月にはオスピタレットで11歳以下を集めたU11チームのアシスタントの職を得た。無給だったが「チャンスだった」と、ビデオカメラを使いチームや対戦相手を撮影して分析した。U11チームにもレベルでAチームからの区分けがあり、担当したのは育成年代のFチーム。スペインとはいえ、ここまで徹底した仕事をする人はいなかった。その努力を陰で見ている人がいた。

 19年4月、チームの監督が突然解任され、強化総責任者であるスポーツディレクター(SD)が後任に就く。その就任日に新監督に呼ばれ、子どもらのチームから一気にプロカテゴリーのトップチームに引き抜かれた。U11のFチームでの働きぶりを評価してくれてのことだった。「最初は何を言われているのかわからなかった。頭が真っ白だった」

 自家用車で試合に赴き、車の中でユニフォームに着替える生活から一転、移動はクラブのバスになり、コーチ用のロッカーも割り当てられた。「天と地の差だった」。A級ライセンスの勉強をしながら、週ごとに相手チームの戦術を分析し、レポートを上げる生活が始まった。

■分析が頼りに

 

 将来的にプロの指導者を目指しており、目を掛けてくれた監督から選手のモチベーションの上げ方、取材対応の仕方などを身近で学んでいる。「理論で頭でっかちになっていたが、選手は指導者の人間力を見ている」と指揮官に必要な資質を考えるようになった。

 今年7月、チームは3部昇格を懸けてプレーオフに挑んだ。コロナでリーグが中断し、6月に練習が再開したばかりで、選手のコンディションは未知数。そこで頼りとされたのが選手の間近で努力を重ねた分析結果だった。レポートを基にチームは約1カ月間、戦術面に力を注いで練習した。

 7月25日のプレーオフ決勝戦。同点だったが、リーグの勝ち点差で昇格を決めた。スタジアムの外でサポーターが祝福の花火を上げバスを取り囲んだ。その花火を見ながら「プロの現場で起こったことを学べるだけ学ぼう」と決意した。

 今季はアナリストに加えて、アルビレックス新潟がバルセロナに置くサテライトチーム(8部)の第2監督を任されることも決まった。ビザ取得のため、帰沖していたが、まもなく渡欧する。「学んだことを沖縄に還元したい」とスペインから世界に向けてサッカー理論などを座学で伝えることのできるオンラインスクールASL(アスル)も立ち上げた。

 プレー経験が豊富でないことを理由に、選手が分析結果を素直に聞き入れてくれず、悔しさもたびたび感じてきた。今季は「よりコミュニケーションを取ってもっと認めてもらう」とこれまで以上に地道な働きをするつもりだ。トップの指導者へと着実に歩みを進める。

(古川峻)