復刻版シューズで2度目聖火リレーへ 64年東京五輪で届かなかった靴 アサヒシューズが寄贈


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宮城勇さん(左)に復刻したシューズを手渡すアサヒシューズの富松義彰さん。手前のトーチやユニホームは宮城さんが1964年の聖火リレーで使用したもの=11日午後、浦添市屋富祖

 1964年東京五輪の聖火リレーで、国内外の正走者約5千人が履いた白いランニングシューズ。当時、沖縄を出発点とした国内リレーの第1正走者を務めながら、何らかの理由でシューズが送られなかった宮城勇さん(78)=浦添市=の下に11日、復刻した一足が届いた。今年4月、56年越しに復刻販売を行った老舗靴メーカー「アサヒシューズ」(福岡県久留米市)の好意で実現した。来春、2回目の聖火ランナーを務める宮城さんは復刻版で再び沖縄を駆ける。

 11日午後、アサヒシューズ沖縄支所主任の富松義彰さん(58)がシューズ入りの白い箱を抱え、宮城さんの自宅を訪れた。シューズはつま先からかかとまで全て白色で、地面に直接触れる靴底は黒色というシンプルなデザインとなっている。サイズは28センチ。
 宮城さんが足を通した。「履き心地いいですね。バランスもいい」。感触を確かめるように軽く走ると、目が輝いた。
 2回目の東京五輪を前に、アサヒシューズは別メディアからの取材をきっかけとして、シューズの復刻に取り組んだ。費やした時間は約1年4カ月。2018年末に構想が動き出したが、当時を知る社員や資料は皆無だった。社内で手書きの設計図を捜し出したり、実際の聖火ランナーが現物を寄贈したりして、実現にこぎ着けた。

1964年の聖火ランナーが実際に使用したシューズ(左)と復刻した真新しいシューズ

 商品企画部の古賀稔健部長補佐(59)は取材に「感無量。達成感がすごかった」と感慨深げ。富松さんは「これを履いて元気に走ってほしい」と宮城さんにエールを送った。

 宮城さんへの贈呈のきっかけは昨年冬ごろ、宮城さんが福岡県のテレビ局の取材を受けた際、当時の正走者にシューズが寄贈された事実を知ったことだった。宮城さんに受け取った記憶はない。当時の写真を見返しても、自前の陸上靴を履いていた。調べても理由は分からなかった。

 1カ月ほど前、アサヒシューズに問い合わせると、古賀さんがすぐに返答した。「また聖火リレーを走るのであれば、復刻版を寄贈させてください」。とんとん拍子に話が進んだ。

 半世紀以上の時を越え、ついに宮城さんに届いた“幻の一足”。「アサヒシューズさんのオリンピックに対する強い思いに感謝する。この靴と共に、聖火を持って走りたい」。抱負を語る宮城さんの表情は、琉球大4年の青年だった当時のころのように生き生きとしていた。

(長嶺真輝)