陸の豊かさも守ろう【SDGsって? 知ろう話そう世界の未来】15


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世界的には生物種の8%が既に絶滅し、22%が絶滅の危機に瀕(ひん)していると言われる。県内も例外ではなく、ほ乳類では51種のうち22種、は虫類は63種のうち37種が「絶滅の恐れがある」としてレッドデータに記載されている。世界に誇る沖縄の生物多様性も「安泰」ではない。

持続可能な開発目標(SDGs)ゴール15は「陸の豊かさも守ろう」。多くの生き物が生息する森を地域の産業に活用しつつ、「木育」で森を守ろうと取り組む国頭村と、人の往来とともに持ち込まれ、在来生物への脅威となる外来種を地域と一緒に駆除する環境省那覇自然環境事務所の取り組みを紹介する。

森林の保全と活用 両立目指す

国頭村、「木育」に力

 琉球王国時代から林業の地として栄えてきた国頭村。住民の生活は木と密接につながり、豊かな森林で育った木材は人々の生活にさまざまな恵みをもたらした。同村ではこうした歴史から、森林文化と木に親しみ、木材の魅力や意義について学ぶ「木育」に力を入れている。森林環境譲与税などの予算を活用した多彩な取り組みを紹介する。

 多数ある木育活動の中でも中心となっている取り組みが「学童机」の制作と「木育キャラバン」だ。

 学童机の制作は17年前に始まった。国頭で育ったウラジロエノキを使用して、小学校で使う机を親子で組み立てる活動だ。今年からは貸し出し制になったが、昨年度までは入学時に村から1年生全員に贈られた。6年間使用し、卒業時には持ち帰ることも可能だった。今後は修理をしながら引き継いでいくという。

 木育キャラバンは2013年、森林公園内に「やんばる森のおもちゃ美術館」がオープンしたことをきっかけに始まった。卵形の木材が詰まった「たまごプール」など、木でできたおもちゃをイベントなどで貸し出し、木材の良さに触れてもらう機会を提供する。

辺土名小学校の教室に並ぶ、ウラジロエノキで作られた学童机=11日、国頭村の辺土名小学校

 美術館のオープンに伴い村は同年、子育てに地元の木材を活用することを目指す「ウッドスタート宣言」を行った。村内の赤ちゃんに誕生祝いとしてリュウキュウマツでできた「やんばるくいなの積み木」を贈る事業も展開している。

 来年1月に供用開始する村役場の新庁舎にもリュウキュウマツを使ったカウンターやテーブル、イスなどが設置される。これらの活動には村の単独予算のほか、森林の保全や活用を目的に昨年から全国で導入された「森林環境譲与税」が活用されている。

 木育活動を担当する経済課の山城弘輝係長は「やんばるの森は世界遺産登録も目指している。その森の保全と活用を両立しながら、人と森の豊かさが続くような取り組みを進めていきたい」と語った。


官民協力し外来種防除

環境省と大宜味村田嘉里区

 環境省が特定外来生物に指定し、県が駆除の「重点対策種」にも指定している南北アメリカ産の植物ツルヒヨドリ。猛烈な繁殖力で世界中で警戒されている植物の防除が、県内では官民が協力し進められている。

 ツルヒヨドリは綿毛のある何万個もの種を散布するほか、つるは断片からでも根を生やして増え、1日に10センチほども伸びる。猛烈な繁殖力で木や森に覆いかぶさるように広がり、下になった植物は日が当たらず枯れてしまう。世界各地で在来生態系や農業にも被害が出ている。

 県内では1984年にうるま市で発見され、本島全域や石垣島、西表島などまで広がった。特定外来種に指定された2016年以降、国や県による防除が始まり、本島ではまず豊かな自然が残るやんばる地域を守ろうと大宜味村、東村、国頭村の3村で防除作業が進む。

シークヮーサー畑で特定外来生物ツルヒヨドリを駆除する高校生ら=2019年、大宜味村田嘉里(環境省那覇自然環境事務所提供)

 対策を始めた頃、大宜味村では河川敷や森が見渡す限りツルヒヨドリで覆われ「森がのみ込まれているようだった」と環境省那覇自然環境事務所の小野宏治さん。

 防除には、つるをちぎらないように丁寧に抜き取り、根はバーナーで焼くなどの作業を毎年繰り返す。この人海戦術での防除に大宜味村では地元田嘉里区も協力。区を挙げて防除作業に加わるほか、企業や学校によるボランティアの受け入れにも協力する。仲原秀作区長は「シークヮーサーや名物のタケノコが生える竹林を丸ごと覆って枯らしてしまう。崖の木を枯らすと土砂崩れの危険もある」と危機感を募らせる。防除にはボランティアのほか環境省の事業を活用して人件費を確保しており「継続するため事業を続けてほしい」と願った。取り除いたツルヒヨドリの重量は年々減少し、防除地点では生息が確認されない所も出てきた。小野さんは「外来種対策は広がる前の早期発見・早期防除が最重要。侵入に気付く目を増やすことが大切」と住民の役割の大きさを強調した。


野生動物 厳しい状況

 世界有数と言われる生物多様性を誇る沖縄だが、2017年に公表された「県の絶滅のおそれのある野生生物(レッドデータおきなわ)」第3版によると、絶滅の恐れがあるとされた野生動物は991種に上る。

 その数は初版が出た1996年の484種、2版(2005年)の837種から増え続けており「県内の野生動物はより厳しい状況におかれている」と指摘する。

 中でも「近い将来、野生での絶滅の可能性が高い」とされる絶滅危惧Ⅰ類が251種で4分の1を占める。また、ミヤココキクガシラコウモリ、ダイトウノスリ、リュウキュウカワザンショウ、キルンは生息が確認されず絶滅種とされた。
 

SDGsとは…
さまざまな課題、みんなの力で解決すること

 気候変動、貧困に不平等。「このままでは地球が危ない」という危機感から、世界が直面しているさまざまな課題を、世界中のみんなの力で解決していこうと2015年、国連で持続可能な開発目標(SDGs)が決められた。世界中が2030年の目標達成へ取り組んでいく。

 「持続可能な開発」とは、資源を使い尽くしたり環境を破壊したりせず、今の生活をよりよい状態にしていくこと。他者を思いやり、環境を大切にする取り組みだ。たくさんある課題を「貧困」「教育」「安全な水」など17に整理し、それぞれ目標を立てている。

 大切なテーマは「誰一人取り残さない」。誰かを無視したり犠牲にしたりすることなく、どの国・地域の人も、子どももお年寄りも、どんな性の人も、全ての人が大切にされるよう世界を変革しようとしている。

 やるのは新しいことだけではない。例えば物を大切に長く使うこと。話し合って地域のことを決めること。これまでも大切にしてきたことがたくさんある。視線を未来に向け、日常を見直すことがSDGs達成への第一歩になる。