ヘイト条例推進に課題 沖縄県庁に人権担当1人だけ 識者「差別根絶難しい」


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「ヘイトはダメ」と書かれたプラカードや旗などを掲げる参加者ら=9月30日、那覇市役所前

 外国人などへの差別的発言を行うヘイトスピーチ(憎悪表現)に対し、県は規制条例の制定について検討している。県議会9月定例会の委員会でも今後、継続して審議することが確認された。だが現在、県庁内で人権問題一般を担当する職員は女性力・平和推進課の職員1人だけ。識者からは「差別をなくすためにも担当者1人で施策を推進するのは難しい」と指摘する声が上がっている。

 琉球新報が全国の都道府県に電話で取材したところ、ヘイトスピーチを含めた人権問題を担当する管理職以外の正規職員が庁内に何人いるかとの尋ねに対し「1人以下」と答えた自治体は沖縄を含む10道県にとどまった。

 沖縄県では障がい者の人権については障害福祉課が担当するなど、事案を所管する各部署が主体的に人権問題に取り組んでいる。県の女性力・平和推進課の榊原千夏課長は「各部署で、きめ細やかな対応をしている」と説明する。

 ただ県外自治体ではヘイトスピーチ問題を人権担当部署ではなく国際交流を担当する部署と連携して業務に当たると回答する例もあった。だが沖縄県は、多文化共生を担当する交流推進課と連携した取り組みは今のところない。

 近年大都市圏の政令指定都市を中心に、ヘイトスピーチを規制する条例が生まれつつある。

 2019年12月に全国で初めてヘイトスピーチに罰則規定を盛り込んだ条例を定めた神奈川県川崎市では、人権・男女共同参画室で管理職を除く一般職員7人が業務を担当している。同室は市の人権問題を広く取り扱うが、規制条例については室全体で分担して取り組んでいるという。

 大阪市は16年1月にヘイトスピーチ対策条例を全国で初めて定めた。条例を取り扱う人権企画課の一般職員は14人。そのうちの一部がヘイトスピーチ条例を担当する。ヘイトスピーチに該当するかなどについて審議する審査会の事務局も同課が担当しており「一定の人員が必要になる」(大阪市)と話す。

 各自治体ににはそれぞれの考え方があり、求められる人員配置は異なるため他地域と沖縄県を一概に比較することはできない。だが識者は沖縄県の対応では条例化は難しいと指摘する。

 ヘイト問題に詳しい弁護士の師岡康子氏は「差別をなくすための施策を推進するには差別の実態調査や当事者など多くの人から話を聞くなど研究を進める必要がある。1人でそれが可能なのか」と指摘する。

 地方自治に詳しい立正大の山口道昭教授は「知事などからの(条例の)方向性の指示を条文にする技術的なテクニックが必要になるし、ヘイトスピーチを規制する条例ならば表現の自由との兼ね合いもある。判断の難しいところをどう表すか(の検討)は1人では厳しいのではないか」と話した。

(西銘研志郎)