「命の証、沖縄の声伝えたい」糸満中上原さんのエッセーが最優秀賞 石橋湛山平和賞


この記事を書いた人 Avatar photo 慶田城 七瀬
糸満中3年の上原一路(ひろ)さん

 【糸満】平和や命の尊さなどを題材にした小論文やエッセーを表彰する「第9回石橋湛山平和賞」の受賞作品が24日に発表され、中高生の部で糸満中3年の上原一路(ひろ)さん(15)の作品「届けたい 貝の声 沖縄の声」が最優秀賞に選ばれた。上原さんはエッセーで、新基地建設が進む名護市辺野古の大浦湾の瀬嵩浜を訪れた際に、色鮮やかな貝殻を見て生物の多様性や生命の尊さを感じ、「ここに確かに生きているという命の証、沖縄の声を伝えたい」と訴えた。県内からの「石橋湛山平和賞」中高生の部最優秀賞の受賞は、昨年に続いて2人目。
 上原さんの受賞作品は次の通り。

 

 

 

 

「届けたい 貝の声 沖縄の声」 沖縄県糸満市立糸満中学校3年 上原 一路(ひろ)

 今、大浦湾は米軍辺野古新基地建設による埋め立て工事が進んでいます。沖縄島の北部、名護市の東海岸の瀬嵩(せだけ)というところから、うっそうとしたアダンのトンネルを通り抜けると、目の前に真っ青な大浦湾が広がっています。埋め立てのために設置されたオレンジ色のフロートが、水平線の手前に切り取り線のように点々と浮いていて、その先に土砂を積んだ運搬船が何隻も見えます。

 工事が本格化する前に、美しい海を一度見ておこうと、2015年7月、私は家族と一緒に初めて大浦湾の瀬嵩浜を訪れました。物々しいキャンプシュワブのゲート前を通り過ぎ、瀬嵩浜に着くと、今まで見たことのない色鮮やかで珍しく、美しい貝殻がたくさん落ちていることに気づきました。私は思わず拾い集め、夏休みの自由研究にしようと、ゆりあげ貝ミュージアム(現言葉と貝のミュージアム)で調べたところ、全部で40種類もありました。ミュージアムにはそれを遥かに超える約 600 種もの貝があり、その多くが瀬嵩浜に打ち上がったものでした。私はその多様性と美しさ、面白さにひきつけられ、「貝の先生になろう」と思ったほどでした。

 大浦湾には 5806 種の生き物が確認されており、そのうち 262種が絶滅危惧種です。絶滅危惧Ⅰ類のジュゴン、絶滅危惧Ⅱ類の渡り鳥ベニアジサシなども来ます。大浦湾は、何百年も生きているサンゴ群や、ジュゴンの餌となる海草の藻場、干潟やマングローブ、川から流れ込む淡水と、湾の深さゆえ深海の栄養豊富な海水のまじりあう、複雑で豊かなとても珍しい環境です。生き物のうち3番目に多いのが甲殻類で 580 種、魚類が 1040 種、そして最も多いのが貝類で 1974種、瀬嵩浜には 700種以上もの貝殻が打ち上がります。毎年のように新種、日本初記録の生物が発見されています。そこで私もどのくらいの貝殻が打ち上がるのか調査しようと思い、2015年7月から2018年 10月までの約3年間、休みの時に瀬嵩浜に通い、バケツいっぱいに貝殻を拾っては同定する作業を繰り返しました。

 調査の結果、同定できたのは 462種もありました。これだけ多くの種の貝が打ち上がる浜は沖縄の中でも数少なく、大浦湾の貝の多様性を示しています。さらに、レッドデータ沖縄と環境省レッドリストによると、絶滅のおそれのある種は 50 種で、採集した貝の10.8%に及びました。

 しかし拡大する海上フロートの下に、更に汚濁防止膜が設置され、2017年ごろから打ち上がる貝殻が明らかに減ってきたのです。私は「海が殺されていく」と感じました。工事が湾内の潮流や環境に影響を与えていると考えた私は、これまでの調査結果を多くの人に知ってもらおうと、学会や集会、コンテストなどで発表してきました。貝殻の標本を展示すると、皆さん「綺麗(きれい)だねぇ」「こんなにたくさんいるの?」と驚かれます。それは、私が初めて貝を拾ったあの日の感想と同じです。

 県知事選挙で辺野古新基地建設に反対の候補が当選し、改めて民意を示したにもかかわらず、2018 年 12月から土砂投入が始まりました。2019年2月の辺野古型め立ての賛否を問う県民投票では、「反対」が有効投票数の72.15%に達しましたが、工事は止まりません。

 費用は当初の3倍の 9300億と政府は見積もっていますが、沖縄県は2兆 5500 億円以上、年月にして12年以上かかると試算しています。なぜなら大浦湾には活断層や、深い海底の下90メートルに及ぶマヨネーズのような軟弱地盤があり、工事は不可能だと考えられているからです。さらに埋立に必要な土砂は、約 1690万立方メートル、10トンダンプ約 360万台分とされています。辺野古とは反対側の本部半島にある山を切り崩し、赤土が船やトラックで搬出されています。採取地は北部だけでなく離島も含めた県内に広がり、私の住む南部の糸満からも土砂が運ばれるという設計変更申請が出されています。糸満は沖縄戦の激戦地で、兵士だけでなく住民も含め多くの人が亡くなった土地です。沖縄戦で亡くなった全ての人を慰霊する平和の礎がある摩文仁という地域から、遺骨の含まれているかもしれない土が運ばれようとしています。この計画変更に対し、知事に対して承認しないように求める「意見書」が沖縄県内外、海外からも1万5000 通以上集まりました。私も、小学生の妹も「貴重な自然を学ぶ場を守ってほしい」と意見書を書きました。

 しかし、辺野古側の浅瀬の区間は埋め立てが進み、辺野古崎と湾沖にある長島との間に護岸が作られ、大浦湾内の潮流は塞がれて一層環境を破壊しています。それでもまだ全体の4%しか埋め立てられていません。どれだけ巨大なのかが分かると思います。

 憲法では基本的人権、国民主権、平和主義がうたわれていますが、沖縄にはそれが平等にあるとは思えません。75年前、戦争で県民の4人に1人が亡くなったほどの犠牲をはらった沖縄が、「戦争につながる基地をこれ以上作らないでくれ」という声は、なぜ無視され続けてしまうのでしょうか。そこに生きる人の声をかき消してまで作られる基地は平和のためにあると言えるのでしょうか。

 声のない貝と声のある私達。私は貝を通して、ここに確かに生きているという命の証、沖縄の声を伝えたい。私達はみんなで力を合わせて、この貴重な生物多様性の宝庫の海を守っていく責任があると思います。大浦湾の貝を守ることができたら、沖縄の平和と民主主義、人権が守られると思います。