第18回宮良長包音楽賞に佐渡山安信さん、真理さん 「キビ畑の緑より濃い音を」中城ジュニアオーケストラ育て40年


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 第18回宮良長包音楽賞に佐渡山安信さん(中城ジュニアオーケストラ団長)と佐渡山真理さん(同オーケストラ講師)夫妻、同特別賞にDA PUMP ISSAさんが選ばれた。安信さん、真理さんは1980年に県内初となる「中城ジュニアオーケストラ」を結成した。これまでに卒団したのは185人に上り、青少年の健全育成や地域振興に貢献した。DA PUMP ISSAさんは96年にダンスボーカルユニット「DA PUMP」を結成し、翌年デビューした。2018年の「U.S.A.」など数々のヒットを飛ばした。同賞は、郷土が誇る作曲家・宮良長包を顕彰し沖縄音楽の発展と活性化を図る目的で、琉球新報社が創刊110年を記念して創設した。贈呈式は12月4日午後6時半から那覇市泉崎の琉球新報ホールで開かれる。新型コロナウイルス感染防止のため贈呈式のみを開催し、出席は招待者に限る。

インタビューに答える佐渡山安信さん=18日、宜野湾市伊佐の佐渡山音楽教室

 「オーケストラ全体が家族であるという思いでずっと関わってきた。異なる年齢の子どもたちが大勢で演奏でき、ダイナミックさを感じられることが子どもたちにとっても魅力なのだと思う」。中城ジュニアオーケストラ団長の佐渡山安信さん(72)と弦楽指導の真理さん(71)は笑顔を見せた。中城ジュニアオーケストラは小学1年生から高校3年生までの子どもたちが週に1度、母校中城小学校にあるひかりホールに集い練習する。練習で泣いてばかりだった子が次第に後輩を教える立場になり、多くの子どもが積極的になっていくなど成長が見られた。「お互いの意見を聞きながら、音を合わせることで協調性を養うことができる。一人一人の個性に沿った指導を心掛けている」と安信さん、真理さんは語る。

 2人は東京の尚美音楽学院教育科(現・尚美学園大学)で出会い、沖縄県の教員採用試験に同じ時期に合格したことを機に帰沖した。1977年4月、安信さんは中城小学校に赴任した。

 同小で教える中、子どもたちの中でオーケストラ音楽に対する気持ちが芽生えていったという。「卒業してもオーケストラを続けたい」と声が上がり、80年8月、中城小の音楽部と卒業生の63人で「中城ジュニアオーケストラ」を立ち上げた。

 中城小音楽部では、鍵盤ハーモニカとアコーディオンの器楽合奏に、バイオリン3本、チェロ2本、コントラバス1本の弦楽合奏でスタートした。楽器が十分に購入できず、楽器が足りなくなると安信さんの給料を楽器の購入費に充てて必要な楽器をそろえ、オーケストラの形を作り上げていった。

 初めて楽器に触れる子や、演奏が多少できる子、スポーツの部活と掛け持ちする子などさまざまな子どもが、保護者の協力の下、励まし合って練習してきた。中城村教育委員会の支援も得た。

 結成翌年の81年5月に初めての定期演奏会「母の日コンサート」を開催。糸満市摩文仁での平和祈念コンサートや、中城村の成人式での祝典演奏などを積み重ねた。日本全国のアマチュアオーケストラが集まる「全国アマチュアオーケストラフェスティバル」に参加し、2000年の第28回沖縄国際大会ではホスト役を果たした。

 N響などのプロの演奏家から指導を受ける音楽合宿「トヨタ青少年オーケストラキャンプ」に01年から参加。創立10周年と30周年の記念コンサートではドボルザーク交響曲9番「新世界」の全楽章を演奏した。

 「キビ畑の中のオーケストラ」として親しまれた。40年の間には、団員が減りオーケストラの演奏が困難な時期もあったが、卒団生が加わり活動を支えた。安信さんは「子どもたちの音楽をキビ畑の緑に負けないくらいより濃いものにしたい」という信念を大事にしてきた。

音楽はいつでもそばに

インタビューに答える(右)佐渡山安信さん、(左)佐渡山真理さん=18日、宜野湾市伊佐の佐渡山音楽教室

 現在は約13市町村から67人の子どもたちが所属する。卒団生の中には音楽大学に進学、プロの演奏家として活躍する人もいる。新型コロナ感染症の影響で今年の母の日コンサートは中止になった。創立40周年記念コンサートも延期となり、来年8月の開催を目指している。

 真理さんは兄弟オーケストラである「うるま市ジュニアオーケストラ」でも、20年間、団員を育てた。

 「受賞には驚いたが、子どもたちや親御さんも一緒に喜んでもらえると思う」と真理さん。これまでに中城ジュニアオーケストラで長包作曲の「桑の実」や「赤ゆらの花」「えんどうの花」を演奏してきた。安信さんは「子どもたちが父や母となった時、音楽はいつでも自分のそばにあるということを伝えたい。『継続することは力なり』で続けてきた。これから若い指導者を育て、ジュニアオーケストラの活動がより充実したものになるようにつなげていきたい。受賞を機に長包先生の作品をもっと研究していきたい」と語った。

 さどやま・やすのぶ 1948年恩納村生まれ。中城ジュニアオーケストラ団長。沖縄交響楽団の舞台監督としてオペラ「椿姫」や「カルミナ・ブラーナ」などを手掛ける。恩納村うんな中学校の校歌を作曲するなど幅広く活動する。現在、日本アマチュアオーケストラ連盟青少年委員会常任委員を務める。

 さどやま・まり 1949年千葉県生まれ。中城ジュニアオーケストラ指導者。沖縄交響楽団の団員となり、コンサートマスターを務めた。89年から29年間アンサンブル・オキナワの事務局長。2000年に具志川市民芸術劇場付属具志川ジュニアオーケストラ(現うるま市民芸術劇場付属うるま市ジュニアオーケストラ)を創設し、以来20年間指導。