[日曜の風・香山リカ氏]フェイクとの闘い 沖縄差別許さない


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 ちょっと自分が起こした民事裁判の話をさせてください。この12月2日、最高裁は番組制作会社「日本文化チャンネル桜」と番組出演者の上告を退け、私の勝訴が確定した。

 名誉毀損(きそん)だとして訴えていたのは、同社の「沖縄の声」といういまも続く番組だ。2016年10月の番組のタイトルは、「ヘリパッド反対派を初起訴、香山リカのツイートが法に触れる可能性あり」。当時、行われていた高江のヘリパッド建設への反対運動を批判的に取り上げ、そこに加わっていた私がSNSで医師法に違反し、病院に監査が入った、というデマが流されたのだ。ただの批判ではなくて、完全にファクト(事実)ではないことを拡散されたことは放置できない。そう考えて提訴に踏み切ったが、まわりからは「時間と労力のムダだよ」とも言われた。

 裁判の過程で、同番組のずさんな作りが明らかになった。匿名の人から寄せられたネット情報を、ほとんど取材することもなくそのまま事実かのように放送していたのだ。いくら時間や経費が足りなかったとしても、「誰かが違法行為をした」などと放送してよいわけはない。

 思えば、東京の地上波で17年1月に放送された番組「ニュース女子」の「沖縄基地反対派はいま」というリポートでも、ずさんな取材が大きな問題となった。現地で拾った茶封筒に「2万」と書かれているのを反対派への“日当”だとしたり、反対派の“黒幕”として在日韓国人の女性の名前をあげたりしたのだ。同番組は放送倫理・番組向上機構(BPO)で「重大な倫理違反があった」とされたが、番組自体は現在も継続中である。

 このふたつの例は偶然なのだろうか。放送に携わる人たちの中で、「沖縄に関しては多少のデマや臆測を報道、放送しても許される」という意識はないだろうか。もしあるとしたら、それこそが沖縄にたいする深刻な差別である。さらに、特に基地に反対する民意を批判的に報じるメディアの中に、同様のフェイクニュースが混じっているのではないか、と推測するのはそれほどむずかしいことではないだろう。

 デマは、ひとつひとつ丹念につぶしていくしかない。裁判にしてよかった。これからも根気よくフェイクと闘っていくつもりだ。

(香山リカ、精神科医・立教大教授)