受け継いだ芸魂、九つの舞踊で表現 観客圧倒の舞台 志田房子80周年公演


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「歌声の響」を踊る志田房子=4日、浦添市の国立劇場おきなわ

 琉球舞踊重踊流の志田房子初世宗家の芸歴80周年を記念した公演「志田房子の会―舞ひとすじ―」が4日、浦添市の国立劇場おきなわであった。戦前に師事した玉城盛重をはじめ、戦後にかけて先達(せんだつ)から受け継いだ芸魂を、みずみずしい生命力に満ちた九つの舞踊で表現した。(藤村謙吾)

 斉唱に続き、古典女踊「稲まづん」に基づいて房子が創作した「穂花」で幕を開けた。房子演じる右手に稲穂を持った老女と2人の列女が、豊年を願う心を表現した。

 続いて、共に上皇さまの琉歌をもとに房子が創作した舞踊「今帰仁の桜」(松田健八編曲、房子振付、志田真木独舞)、「歌声の響」(上皇后さま作曲、房子編曲・振付、房子独舞)を演じた。「今帰仁の桜」で扇をはらはらと使い舞う姿は、城門に咲き乱れる満開の桜を思わせた。「歌声の響き」は、冒頭の手を打ち合わせる所作をはじめとする抑制の効いた動きの中にも、あふれる喜びを感じさせた。

 盛重による振り付けの舞踊劇「金細工」はアンマーを房子、真牛を真木、加那兄を知念捷が踊った。花道の登場から、美しい立ち姿の中に愛嬌(あいきょう)をにじませる真木が観客を魅了する。盛重の当たり役・加那兄を演じる重圧もありながら、懸命に踊る知念の姿と共に観客を満足させた。観客は、房子が登場するとさらに沸き立ち、圧巻の踊りに視線を注いだ。重心を後ろに置いて少し崩した姿勢だが、品は損なわない貫禄あるアンマーに喝采が送られた。

「金細工」を踊る(左から)知念捷、房子、志田真木

 最後は踊り手総出演による「ゆがふ(世果報)」(房子選曲・振付)で飾った。

 前半は、8人の踊り手が農作業の様子を表現した芸能「まみどーま」を、へらやくわなどの道具を花染手巾(はなずみてぃさじ)に持ち替えて軽快に踊った。竹籠を抱えた房子が登場し場を盛り上げた後、花道に向かって手招きをすると、12人の踊り手が田植えをしながら再び登場。収穫した稲を精米する様子を描いた「ンニシリ(稲しり)節」に乗せて、こちらも臼や脱穀機を手巾で表現し、にぎやかに幕を下ろした。ほか演目は「あかゆら」「御代の春」「浜千鳥」「御嘉利吉」。

 ほか踊り手は姫野多美、前田恵、津波ありさ、平木澄恵、新垣昌子、杉森咲野。賛助出演が東江裕吉、新垣悟、佐辺良和、田口博章。

 地謡は歌三線が新垣俊道、仲村逸夫、喜納吏一。箏が宮城秀子、仲松恒子、林杏華、太鼓が比嘉聰、笛が入嵩西諭。鳴り物が宮里和希。

 初世宗家の芸に圧倒されるとともに、重鎮とその芸を確かに継ぐ二世宗家、宗家らの背中を見て研さんを積む若手の姿に、幾代もつながる芸能の未来を感じさせた舞台だった。(写真はいずれも琉球舞踊重踊流提供)

出演者全員で演じられた「ゆがふ(世果報)」