<深掘り>守るのは県民全体の暮らし…普天間爆音第3次提訴 被害実態なお「空白」


<深掘り>守るのは県民全体の暮らし…普天間爆音第3次提訴 被害実態なお「空白」
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 米軍普天間飛行場の周辺住民による第3次普天間爆音訴訟が25日、始まった。裁判を通じて基地負担の重さや健康・安全が脅かされている現状を広く発信する狙いもある。訴状には、飛行差し止めにより根本的な問題解決を望む原告団の思いが表れている。

 住民側は訴状で米軍機の騒音の被害に加え、相次ぐ事故や部品落下の事例を列挙し「具体的危険性が現実の問題として日常的に存在し続けている」と指摘した。戦略上、被害が認定されてきた騒音コンター(分布図)の区域に原告を絞ったが、訴訟で守ろうとしているのは周辺住民をはじめ県民全体の暮らしだ。

 騒音訴訟の被害認定は国が引いた騒音コンターに基づいてきた。元々、普天間飛行場に配備されている主な航空機はヘリコプターで、固定翼機と比べて低周波音が特徴的だ。コンターの基になっている騒音の表し方「うるささ指数(W値)」に低周波は反映されにくい。また、従来機よりも低周波音が強いとされる垂直離着陸輸送機MV22オスプレイが2012年に配備された。

 前回の第2次訴訟では一審で低周波音の被害が認められたが、控訴審では一転して否定された。米軍機による低周波音被害は全容が解明されておらず、適切に評価できる環境基準が設定されていない。大学教授による研究はあるが、防衛省や県、地元自治体など行政による実態把握の取り組みがなく、空白状態だ。

 琉球新報が17年に普天間飛行場周辺に住む127人に聞き取った調査では、頭痛や耳鳴りなど実際の体調不良を訴えた人も約3割の35人いた。今回の訴訟を通じて裁判所がどの程度、低周波の被害を認めるかどうかも焦点の一つだ。

 岸信夫防衛相は25日の会見で、爆音訴訟の提訴について見解を問われ「これまで以上に主張を尽くしていく」と述べたが、実際は従来通りの主張にとどまる見通しだ。防衛省関係者は「現状以上の主張はない」と明かした。政府関係者の一人は、騒音に対する個人への補償の枠組みがない中、判決に基づく賠償金が実質的な「補償になっている面もある」と、冷めた見方を示した。

 政府は普天間飛行場を移設することで問題を解決すると主張している。政府の方針通りなら名護市辺野古の新基地建設ができた後に返還することになるが、新基地を米軍が使うまでに少なくとも12年かかる。一日も早い危険の除去を望む地元の切迫感と政府の構え方では落差が大きい。

 新垣勉弁護団長は「裁判が終わるまで7、8年要する」と予想する。2次訴訟を進めている間にも宜野湾市の保育園や小学校に米軍ヘリの部品が落下する事故などがあったことに触れ「今回の裁判中にも不幸な事態が起こらないよう、墜落や落下物の危険性をしっかりと主張し、裁判所を動かしていきたい」と語った。

(明真南斗、知念征尚)