識名トンネル虚偽契約問題、5千万円超が県民負担に 元県幹部の損害賠償減額で


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 県発注の識名トンネル建設の虚偽契約問題を巡り、識名トンネル建設に関わった元幹部2人に対する損害賠償請求額を1千万円ずつに減額する和解案が、21日の県議会11月定例会最終本会議で可決された。県が「早期かつ円満な解決」につなげたいと強調する一方で、和解が成立すると、残り約5178万円は県民負担の形となる。住民訴訟の原告、識者から、県の対応に疑問の声が上がっている。(比嘉璃子)

委員から識名トンネル問題について追及を受け、資料を確認する県職員ら=11日、県議会土木環境委員会

 住民訴訟の原告の一人、北上田毅氏は県の調査や説明は不十分で、和解は「身内をかばう、内輪の論理が働いたとしか思えない」と批判した。沖縄大学の仲地博名誉教授は「県行政内部での何とかなるという考えや、内々で済まそうというなれ合いの構造が明らかになった」と指摘する。

 今月11日の県議会土木環境委員会の審議では、和解額をどのように決めたのか、責任の所在をどのように調査したのかについて議論が集中した。

 裁判所が示した和解額について、どのような資料を基に元幹部らの支払い能力を判断したのか、県は把握していなかった。元幹部らが公務保険に加入していたかも県は調べていない。

 複数の委員は「保険加入の有無は調べるべきだ」と指摘したが、県は「保険は任意で加入している」として保険に関する資料提供を求めなかったと説明した。

 「損害賠償を求める時は財産を差し押さえるのが当然だ」との委員の追及に、裁判所の判断を踏まえて対応することや、時間を要することなどを理由に行わなかったと説明した。

 12年には県監査委員会が、関係職員や請負業者を再調査し、必要な措置を講ずるよう勧告した。だが、県は「住民訴訟の行方を見守りつつ、検討した方がいい」との考えから勧告に従わなかったといい、県の調査や手続きに対する後ろ向きな姿勢が垣間見えた。

 委員らは県の調査が不十分だと指摘したが、「和解案が成立しなければ、元の請求額に戻る」(野党議員)との声もあり、議案を全会一致で可決した。

 識名トンネル工事で元県幹部らが手続きや工期を偽り、県は利息を含む約5億8千万円を国に返還した。2012年に県民11人が当時の仲井真弘多知事を訴え、元県幹部2人に利息分の計約7178万円の支払いが最高裁で確定した。

 元幹部らは利息分の返還に応じず、19年に県が訴訟を提起。今年7月に裁判所が、元幹部2人の賠償額を1人1千万円ずつとする和解を勧告した。

 21日の県議会本会議の採決で、自民会派などの野党議員は「県の仕事をしていて、県職員に負担がいくのは納得がいかない」と、和解案への賛成を貫いた。与党議員は「本来は全額求めるべきだが、1千万円ずつも取れなくなることを回避する必要があった」と賛成に回り、全会一致の可決となった。

 和解案の可決により、和解は成立する見通しで、残り約5178万円を県民の税金で賄うことになる。だが県は、裁判所の和解勧告を受けて「司法の判断に従ったことになるので、損害とは考えていない」との認識を示している。