2020年の沖縄経済も激動だった 何あった?


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 2020年の沖縄経済は新型コロナウイルスの感染拡大に翻弄(ほんろう)され、景況が急速に悪化、官民共に対応に追われ続けた。1~9月の入域観光客数は前年度比約6割減、好調だった沖縄経済を下支えしたインバウンド(訪日外国人客)は激減となった。観光の落ち込みは他産業に波及し、感染症の長期化に伴って廃業に追い込まれる中小・小規模事業者も増えつつある。1月に県内で豚熱(CSF)が確認されたほか、和牛の血統不一致問題が明らかになるなど、農林水産業でも大きなニュースが相次いだ。激動の1年を振り返る。

新型コロナウイルスの影響で、多くの航空便が運休となり閑散とする那覇空港=4月27日

観光、雇用が低迷/経済損失6482億円に

 

 2020年、世界中で猛威を振るった新型コロナウイルスは、沖縄経済にも甚大な被害を与えた。県経済を支える個人消費が縮小し、「外貨」を稼いできた観光も低迷している。

 県は4月に緊急事態を宣言し、遊興施設や学習施設など7業態に休業を要請。5月14日に宣言を解除した後は一時的に落ち着いたが、夏場を迎え再び感染が拡大したことから8月から9月にかけて緊急事態が宣言され、県民に対しては外出自粛が要請された。年末年始も感染が拡大し、旅行や不要不急の外出は控えるよう呼び掛けられている。

 ゴールデンウイーク、夏休み、年末年始など需要が高まる時期にコロナが直撃し、基幹産業の観光業は著しく落ち込んだ。感染拡大により19年に1016万人を超えた入域観光客は400万人を下回る見通しだ。

 外出や会食を控える動きが広がったことで、個人消費も減退している。県は9月、新型コロナによる経済損失を、県内総生産の約15%に当たる約6482億円とする試算を発表した。

 企業の業績が低迷し、雇用や所得にも悪影響が生じる。19年に日本復帰後最高の1・19倍を記録した有効求人倍率はコロナ拡大により急降下し、9月には0・64倍(季節調整値)を記録。10月の完全失業率は3・8%となり、手当て、賞与の削減などの動きも相次ぐ。


那覇空港第2滑走路運用開始/新たな起爆剤 期待も

第2滑走路が利用開始し、放水アーチで歓迎される最初に着陸した旅客機=3月26日、那覇空港

 アジアの中心に位置し、高い地理的優位性を有する那覇空港で3月26日に、沖合に建設してきた第2滑走路運用が始まった。県や経済界が悲願としてきた新滑走路完成で人や物の流れが活発化し、県経済の新たな起爆剤となることが期待される。

 新滑走路は既存の滑走路の1310メートル沖合を埋め立てて建設し、長さ2700メートル、幅60メートル。2014年1月の着工から5年10カ月で完成した。総事業費は2074億円。航空機が円滑に発着できる能力(滑走路処理容量)は、1本滑走路の1・8倍となる年間24万回に拡大した。

 一方で、新型コロナの流行に伴う入国規制により、3月24日に沖縄発着の海外旅客便が全便運休になった。国内路線も減便が続き、那覇空港の利用便数は落ち込んだ。


ツーリズムEXPO/MICE 新たな形

国内外の観光業関係者が観光PRをしたツーリズムEXPO=11月1日、宜野湾市の沖縄コンベンションセンター展示棟

 沖縄初開催となる「ツーリズムEXPOジャパン 旅の祭典in沖縄」が10月29日~11月1日に、宜野湾市の沖縄コンベンションセンターと宜野湾市立多目的運動場で開催された。新型コロナウイルスの感染拡大で例年より規模を縮小したが、コロナ下での開催を模索し、感染防止対策を徹底した「新たなMICEの形」を示すこととなった。

 「リゾテックオキナワ おきなわ国際IT見本市」などを併催し、4日間で計2万4174人が来場。国内外の取り組み紹介やデジタル技術の活用など、観光の最新動向が一堂に会した。開催に当たっては会場内が密にならないよう事前登録制とし、入場時にQRコードを読み取ってもらい会場内の人数を管理した。


JAおきなわ統廃合/問われる農協の使命

JAおきなわが進める店舗再編で廃止となった辺野古出張所=10月、名護市

 JAおきなわは10月に、信用事業を扱う店舗を大幅に縮小する店舗再編に踏み切った。

 マイナス金利などによる経営環境の悪化を背景に、経営のスリム化で収益改善を図る狙いがある。計画は2022年3月までに、県内102店舗のうち25店舗を廃止、14店舗を規模縮小する予定。

 店舗がなくなる地域の金融インフラを維持するため、JAおきなわは移動金融店舗車の巡回を北部と中部で開始した。

 生産資材などを販売する購買店舗の再編は、農家経営に直結することから、現在も議論の最中にある。過疎化や高齢化が進む農村、農家をいかに支えていくのか、協同組合の使命や役割が問われている。


34年ぶり養豚業直撃/1万2381頭殺処分
 

豚熱の感染拡大防止に向けてワクチン接種を進める県職員=3月6日、国頭村内(県提供)

 うるま市の養豚場で1月、豚やイノシシの伝染病「豚熱(CSF)」の感染が確認された。県内では1986年以来34年ぶりの発生確認となった。3月までにうるま市と沖縄市で7例が確認され、防疫措置のために殺処分された豚は計10農場の1万2381頭に上った。防疫作業には県職員や民間団体のほか、災害派遣要請を受けた自衛隊も動員された。

 感染の拡大を防ぐため発生農場から半径10キロ圏内の養豚場は出荷が制限されるなど、県内養豚業は大きな打撃を受けた。区域制限は98日間にわたった。

 生産団体の強い要望もあり、玉城デニー知事は沖縄本島全域をワクチン接種推奨地域とするよう国に要請。国の指定を受け、3月6日からワクチン接種が始まった。固有種保存の観点から「アグー」計25頭の離島避難も実施された。一定期間にわたって新たな感染がなく、防疫のための制限区域が全て解除された4月14日、玉城知事は豚熱の「収束」を宣言した。


和牛血統不一致、久米島で発覚/揺らいだ沖縄ブランド

和牛の「安福久」のDNA不一致問題を受け謝罪するJAおきなわの普天間朝重理事長(右から2人目)ら=3月13日、那覇市壺川のJA会館
優良な種雄牛「安福久」の血統を持つ母牛=3月、久米島町

 3月、久米島町の家畜人工授精師(当時)の男性が種付けした複数の黒毛和牛が、血統証明書と異なる血統だったことが発覚した。優良な種雄牛「安福久」の精液を交配して誕生したことになっていたが、DNA検査の結果、安福久の血統ではなかった。

 和牛の価値を決める血統証明の信頼性が問われ、黒毛和牛の子牛を全国に供給する沖縄ブランドを揺るがした。県内家畜市場を運営するJAおきなわが、事態を把握しながら公表せずに競りを続けた対応も購買者の反発を招き、JAは記者会見で謝罪した。

 血統不一致は久米島町以外でも確認された。血統不一致の原因が授精作業ミスであったことから、県やJAおきなわなどでつくる県家畜人工授精適正化会議が再発防止に向けて、農家や人工授精師の双方が取り組むべき授精業務のマニュアルを作成した。県は9月、この男性に対して免許取り消しの行政処分を下した。


バナメイエビ大量死/国内初確認の疾病

国内で初確認となるエビの特定疾病「急性肝膵臓壊死症(AHPND)」が発生した養殖場で処分されるバナメイエビ(県水産課提供)

 大宜味村のバナメイエビ養殖場で10月、甲殻類の伝染性疾病「急性肝膵臓壊死(すいぞうえし)症(AHPND)」によるエビの大量死が確認された。同疾病は持続的養殖生産確保法に基づき、まん延した場合に重大な損害を与える恐れのある特定疾病に指定されており、国内では初確認となった。

 疾病の初確認を受け、農林水産省は即座に専門家会議を設置。同会議は10月26日、養殖業者がタイから輸入した稚エビが原因だった可能性が高いとの結論をまとめた。県内のクルマエビ養殖に影響が及ぶことが懸念され、県は11月に養殖場周辺海域でエビ類の採取調査を行った結果、海域で感染は見つからなかったと発表。感染は養殖場内にとどまったとの見方を示した。