<検証 豚熱1年>④拡大リスク懸念し判断 終了見えず、農家に負担も ワクチン接種


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豚熱の感染拡大防止に向けてワクチン接種を進める県の獣医師=2020年3月、国頭村内(県提供)

written by 石井恵理菜

 2018年9月、岐阜県の養豚場で国内26年ぶりに「豚熱(CSF)」が確認された。陸続きの本州では野生イノシシが媒体となり、関東地方まで感染が広がった。昨年12月末時点で、養豚場で感染が確認された都道府県は沖縄を含めた10県、野生イノシシでは23都府県にまたがる。

 ただ、本州と海を隔てる沖縄にどのようにウイルスが侵入したのかについては、他県とは違った防疫上の検証が求められた。

 感染経路をたどった農林水産省の疫学調査チームは、ウイルスが付着した肉製品が本州の発生地域から県内に流入し、食品残さ(残飯)に混ざり込んだ可能性が高いと結論付けた。一方、侵入時期や詳しい経路の解明は難しいという。

 県内では、20年1月8日にうるま市の養豚場で感染が確認されて以降、計10農場で殺処分が行われたが、感染事例は全て、最初の発生農場から半径3キロ圏内に収まった。

 当時、県の畜産課長だった仲村敏・県畜産振興公社専務は「(感染を)止められる自信はあった」と語り、感染確認後の徹底した防疫措置で、ウイルスを局所的に封じ込めることができたという認識を示す。

 前回豚熱が発生した1986年当時は、国内全域でワクチン接種が義務化され、ワクチンで感染を防ぐことが一般的だった。

 だが、ワクチンを打つことでウイルスに感染しても病気の発症が抑えられるものの、症状が出ないためにかえって感染状態の見分けが難しくなる。ウイルスが完全に存在しないのかどうかが見えにくく、収束が確認できるまでには長期にわたりワクチン接種を続けなければならない。

 34年前の感染時には、一部農家がワクチン接種の費用負担を嫌がって接種を止め、発症が収まらないこともあった。ワクチンを打つと輸出も制限される。

 県は当初、ワクチン接種のデメリットを踏まえ、徹底した防疫措置でウイルスを駆逐する方針だった。一方で、うるま市以北に生息する野生イノシシにウイルスが感染してしまい、局所的な封じ込めに失敗する懸念は拭えなかった。県内の養豚農家の衛生管理が不十分という現状から、再びウイルスが海を越えて入り込んでくるリスクも否定できなかった。

 本島中部での感染確認以降、県内全体の農家の間に「感染が見つかるんじゃないかと、毎日苦しくてたまらない」と不安が募っていった。生産者団体は1月中旬に、県や国にワクチン接種を要望する。接種に慎重だった県も、同月22日にワクチン接種により豚熱の収束を図る方針を表明した。

 沖縄は他県と比べて農場立地の密度が高く、感染が拡大しやすい環境にあることも、ワクチン接種を判断する要因となった。

 昨年3月に本島全域でワクチン接種が始まり、7月に計17万2018頭で初回接種を終えた。接種をした豚は免疫作用で病気の発症を抑制できるが、全ての豚で抗体を得られるとは限らない。現在も子豚が生まれる度に接種が続く。

 接種にかかる手数料は1頭当たり160円。県内南部の農家は「(接種していることで)安心感はある」と話す一方で、手数料の負担は大きいという。「定期的な抗体付与の状況検査もある。獣医師の負担も大きい」と語る。

 昨年3月12日以降、県内で新たな豚熱の発生はない。ただ、県によるとワクチン接種終了のスケジュールは未定で、県産豚の輸出停止は当面続く。農水省は「ウイルスはワクチンによってコントロールされている。封じ込めたとは言いにくい」と話し、接種を終えるには飼養衛生管理基準の順守など、さらなる防疫強化が必要だとする。

 県は今年4月の組織改編で、畜産課内に「家畜防疫対策班」を新設し、農家への指導を強化する。獣医師も3人増員する方向だ。

 久保田一史課長は「農家の負担もあるので、できるだけ早くワクチン接種終了に向けて議論ができる条件をそろえたい」と話した。
  (次回は12日掲載)