[日曜の風・香山リカ氏]米議会乱入 陰謀論、民主主義の敵


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 バイデン氏が大統領選で当選したことを正式に承認するために開かれたアメリカの議会に、トランプ支持者たちが乱入。議員たちは避難して無事だったが、4人の支持者が命を落とす惨事となった。

 乱入した支持者たちの多くは、「選挙には不正があった」とし実際はトランプ氏が当選したと確信していたようだ。それを裏づけるために壮大なストーリーが組み立てられ、ネットで拡散されているが、多くのメディアがファクトチェックでそのウソを暴いている。つまりそのストーリーは「陰謀論」と呼ばれるたぐいのものなのだ。

 今回の事件は、「デマに基づく陰謀論こそ民主主義の敵」ということを私たちに教えてくれた。また、陰謀論の危険性も痛感した。そしてこれは、私たちにとってもひとごとではない。

 辺野古新基地建設問題にしても、これまで数多くのデマが流され、それがつなげられて陰謀論に仕立て上げられている。翁長雄志前知事は「家族の留学で中国に便宜を図ってもらった」とのデマを拡散されたあげく、基地建設反対も中国の意向だという陰謀論がいまだにネットで語られ続けている。私自身も臨床で使うために中国語を学習しているという事実を、「中国の工作員だ。だから新基地にも反対している」との陰謀論に発展されて語られることがある。

 これまで多くの人は、「陰謀論なんてそれを信じる方がおかしいのだから、放っておけばよい」と考えていただろう。「相手にしなければそのうちおさまる。取り上げるから余計に騒ぐのだ」と言う人もいる。しかし、そうではなかった。陰謀論を放置すると、今回のアメリカの事件のようなことも起きかねないのだ。事実ではないことは、やはりそのつど「それは違う」と否定していくしかない。

 さて、今月末から始まるバイデン政権は沖縄の基地問題にどういう姿勢でのぞむのだろう。副大統領のカマラ・ハリス氏は女性、非白人という属性のゆえ、少数者の声も聴いてくれるのではないか、という期待も高まる。陰謀論などに負けることなく、しっかり沖縄の声を届けていってほしい。

(香山リカ、精神科医・立教大教授)