朝鮮労働党第8回大会 基地強化の「口実」注意を<佐藤優のウチナー評論>


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佐藤優氏

 1月5日から12日まで北朝鮮の首都・平壌で、朝鮮労働党第8回大会が行われた。第7回大会は2016年5月6日から9日まで行われたので、4年半ぶりの党大会になる。今回の党大会には金正恩氏をはじめ、党中央委員会関係者250人、各級組織の代表者4750人など5000人に加え傍聴者2000人の計7000人が参加した。

 「ネナラ」に掲載した写真を見ると、ここでも誰もマスクをしていない。この時期に7000人が一堂に会する党大会を行うことで金正恩氏は、北朝鮮で新型コロナウイルスに対する感染対策が万全であることを示したいのであろう。

 10日に金正恩氏が、朝鮮労働党の総書記に選出された。総書記という肩書は金正恩氏の父親・金正日氏のものだった。「恐れ多い」として用いなかった総書記の肩書を金正恩氏が用いることで、カリスマ性を増そうとしたのであろう。

 同日、李日煥氏(労働党中央委員)が朝鮮労働党総書記の選挙に関連する提案を行った。

 〈提議者は、革命の最高頭脳、指導の中心、団結の中心として領袖(りょうしゅう)の地位を占め、人民大衆の革命偉業、社会主義偉業の遂行において決定的役割を果たす党の最高指導者を正しく推戴することが持つ大きな政治的意義について述べた。/また、領袖の偉大さはすなわち党の偉大さであり、国と民族の強大さであり、革命偉業の不敗性であるという哲理は朝鮮革命の聖なる歴史と長きにわたる世界革命的党建設史を通じて実証されたと述べ、偉大な金日成同志と偉大な金正日同志の革命偉業を立派に継承してわが党とチュチェ革命を卓越に導いてきた敬愛する金正恩同志の偉大さと希世の業績について強調した。/(中略)提議者は、敬愛する金正恩同志を朝鮮労働党の首班としていただくのはわれわれの時代の厳かな要求であり、数百万の党員と人民の確固たる信念であると述べ、全党と全人民の総意を集めて金正恩同志を朝鮮労働党総書記に高く推戴することを本大会に丁重に提議した。〉(1月11日「ネナラ」日本語版)。

 朝鮮労働党は、ミイラとなり、錦繍山記念宮殿に安置されている建国の父・金日成氏と息子の金正日氏の2人の総書記によって指導されているという建前になっている。従って、この2人の遺訓が、北朝鮮の国家意思を形成する上で重要だった。今回、祖父、父と同じ朝鮮労働党総書記という肩書を得たことにより、金正恩氏の政策決定における幅が広くなった。

 李日煥氏は、「偉大な金日成同志と偉大な金正日同志の革命偉業を立派に継承してわが党とチュチェ革命を卓越に導いてきた敬愛する金正恩同志の偉大さと希世の業績」という表現で、もはや金正恩氏は、金日成氏、金正日氏と対等の国家指導になったという北朝鮮の新たな「ゲームのルール」を宣言している。象徴的なこととして、大会会議場に金日成氏と金正日氏の写真が掲げられていなかった。

 北朝鮮の国家目標は、金王朝による支配の維持だ。当面は、米国のバイデン新大統領を牽制(けんせい)するために核兵器と大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発を再開するというカードを金正恩氏が弄(もてあそ)ぶことになると思う。朝鮮半島の緊張を口実に在沖米軍基地の機能強化を東京の政治エリート(国会議員、官僚)が画策することに細心の注意を払わなくてはならない。

(作家・元外務省主任分析官)