インバウンド業界苦境、悲鳴 回復見通し全く立たず 中国団体客規制から1年


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31日に閉館するレッドプラネット沖縄那覇=27日、那覇市前島

 中国政府が新型コロナウイルス感染症の対策として団体旅行を規制し、沖縄観光に直接の影響が出始めてから、27日で1年がたった。2020年1月下旬からクルーズ船の寄港キャンセルが相次ぎ、3月下旬からは全ての国際航空線が運休、外国人観光客ゼロの状況が続いている。

 2020年の外国人観光客は前年比91・2%減の25万6900人と壊滅的に落ち込み、外国客を中心としていた業界は苦境に立たされている。外国人観光客の回復見通しが立たない中、今月31日には外国人観光客をメーンの顧客とし、低価格で運営してきた那覇市のホテル「レッドプラネット沖縄那覇」が閉館する。

 同ホテルによると、コロナ前は中国や香港からの観光客が多く訪れていたが、感染症の広がりによって宿泊客数が大幅に減少した。従業員は国内の別の支店で働くか、本人の希望で退職することになるという。

■「つぶれる手前」

 「つぶれる(倒産する)手前だ」。県内で外国客向けのガイド付商品を取り扱っているメリットトレーディング(那覇市)の担当者はこう漏らした。以前は中国人向けの商品が売り上げの7割を占めていたが、コロナ禍で需要は一気に消失した。

 観光支援策「Go To トラベル」などを活用して旅行商品を打ち出したが、感染拡大によって停止し、厳しい状況が続く。担当者は「インバウンドがいつ回復するのか見えない状況だが、いつかは戻ってくる。そこまで生きていける固定費の支援などをお願いしたい」と行政に対して、支援を求めた。

 ■多業種に影

 県の統計によると、19年度の国内客1人当たり消費額7万6987円に対して、空路の外国客は同10万2528円、滞在時間が短い海路客も1万9886円だった。消費額の大きい外国客が来なくなったことで、ホテルや旅行社以外の業種にも深刻な影響が現れている。

 外国人観光客に人気のスポット「道の駅いとまん内お魚センター」(糸満市)を運営する糸満漁業協同組合によると、19年4月~11月期にレジでの売り上げ人数は39万人だったが、20年同月は、前年比46・1%減の21万人で、売上高は35・6%減少となった。同漁協によると、センターに入居する仲買業者の家賃を減免するなどして、経営維持を図っている状況だ。

 沖縄通訳ガイドネットワーク会によると、昨年2月ごろから、団体客が相次いで旅行をキャンセルし、通訳の仕事はほぼゼロになっている。西田金市会長は「会員の大部分がフリーランスで、生活が厳しい人も多い。若い人はコンビニなどでアルバイトしているが、高齢者はそれも難しい」と苦境を訴えた。

 沖縄観光総研の宮島潤一代表は「沖縄は、国内客の受け入れではハワイなどに行けない富裕層の需要を受けて、他の観光地よりも早く立ち直る。安全安心は当然として、コロナ禍以前に不足していた課題を解消していくことが必要だ」として、国内客誘致に力点を置いた受け入れ体制の整備を進めるべきだと指摘した。 (池田哲平)