【深掘り】コロナ禍で思惑が一致 琉銀・沖銀ライバル同士の業務提携 「統合の布石」見方も


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 菅政権下で地銀への統合圧力が強まる中、全国でも知られたライバル行の琉球銀行と沖縄銀行が業務提携を進めるという発表は、驚きと共に業界を駆け巡り、経営統合をにらんだ布石ではないかとの臆測も広げた。両行は協力を模索するものの経営の独立性を担保すると強調し、経営統合については否定する。ただ、両頭取は事務効率化のほか、多くの事業で協力していく方向性も示した。政府関係者は「金融環境から考えると、(経営統合が)将来的に『全くない』とは言えない」と指摘する。

会見で業務提携の概要を話す(左から)琉球銀行の川上康頭取と沖縄銀行の山城正保頭取=29日午後5時10分ごろ、那覇市松尾の八汐荘

 株式市場が閉じた金曜日の午後4時半、沖縄銀行の山城正保頭取、琉球銀行の川上康頭取が顔をそろえた記者会見は、終始、融和的なムードが漂っていた。沖銀の山城頭取は「しのぎを削ったライバル行同士。大きな決断だった」と語り、琉銀の川上頭取は「県民に対して覚悟を示す。まずは結果を出す」と強調した。

 ■厳しい収益環境

 銀行から預かった資金の一部に年0・1%の手数料を課す日銀の「マイナス金利」政策は、導入から5年がたち、両行の貸出金利回りは年々低下していた。それでも好調な県経済を背景に、市中への貸出金のボリューム(量)は拡大して利回りの低下を補う形となってきた。

 だが、長引くコロナ禍で県内事業者の経営体力が急速に弱まる中で、今後は事業性資金の需要低下も考えられる。

 全国的に地銀の収益環境が厳しさを増す中で、政府が音頭を取る再編統合の足音は着実に迫っている。九州の地銀では2019年に大分銀行と宮崎銀行が地方創生に関する包括連携協定を締結。20年には、ふくおかフィナンシャルグループ傘下で長崎県が地盤の十八銀行と親和銀行が合併し、十八親和銀行が誕生した。

 政府関係者は「金融庁から統合に向けた圧力が強まっているのは確かだ」と指摘した上で、「ただ、沖縄の2行は他県の地銀に比べて経営は順調だ。沖縄のような閉鎖的な金融空間で経営統合となると競争原理が働かなくなり、結果的に顧客にとって不利になるのではないか」との考え方を示した。

 ■「鉄は熱いうちに」

 関係者によると、今回の業務提携は昨年12月ごろから議論を重ね、両頭取が合意したため、日を置かずに発表した。ある幹部は「『鉄は熱いうちに打て』ということで、このタイミングになった。先延ばしすると、まとまらなくなる可能性もあった」と明かす。

 両行ともに経費比率(OHR)の改善が急務と位置付けており、「現金輸送などはコスト削減に向けた『枝葉』で、コスト削減に向けてゼロベースで話し合っていくことになる」(銀行幹部)と、業務提携によって経営改善や収益の増加を急ぎたい考えだ。

 一方、29日の発表内容に対し、県内の別の金融機関関係者は「具体的なところがあまり決まっていない。本当にコストが削減できるのか、コンセプトだけでかけ声倒れにならないか」との見方を示した。

 1行ではできなかった大型案件などへの融資も見据えるが、具体的な議論は今後本格化する。垣根を越えた連携が具体化し、県経済に有益な形で還元できるのかが注目される。 (池田哲平)