【記者解説】「量より質」の観光へ 沖縄県政が掲げる目標、実現までのハードルは


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(資料写真)

 2022年度からの新たな沖縄振興計画の策定に向け、県は、国連が掲げ玉城デニー知事も推進する「持続可能な開発目標(SDGs)」の理念を取り込み、従来の入域客数を追い求める施策から消費額を重視する方向へかじを切った。

 県は所得向上のため沖縄観光のさらなる地位向上を掲げる。そのため環境や住民生活にも配慮したさらに高いレベルの観光地形成により住民生活の向上を目指す。最大の課題は、沖縄の日本復帰後約50年間続く、全国最下位の1人当たり県民所得の向上だ。

 新型コロナウイルスの感染拡大前は沖縄も悩まされたオーバーツーリズムを克服し、持続可能な観光地を構築したイタリアのサルデーニャ島がモデルだ。19年に同島を視察した富川盛武副知事は「安心で安全な観光地が大前提だ。経済効果、観光、住民のウェルフェア(福祉)による三位一体を実現した持続可能な観光地にしていきたい」と語った。

 県経済や県民生活を劇的に変化させようと、嘉手納基地より南の米軍基地返還に伴う大規模跡地の開発や鉄軌道整備、新たな特区制度創設による新興企業の集積なども盛り込んだ。ただ、これらの施策は普天間飛行場を返還させたり、軌道の導入コストに関する県と国の試算の隔たりを埋めたりする作業が必要で、実現のハードルが高い。

 政府は次期振計の延長を明言していないが、順調にいけば予算措置の観点から、今秋にも延長を表明する可能性がある。日本復帰から約50年がたち、振興策によって沖縄の住民生活や経済が一定程度向上し、県外から向けられる目も変化した。政府は当初の理念とかけ離れて沖縄振興と米軍基地問題をリンクさせる手法を用いて、それを是認とする一定の世論もある。

 振計の延長には、低迷する日本経済の復活へ向けて沖縄がけん引役を果たすことについて説得力のある説明が必要だ。仮に延長できても、ハードルの高い施策も含めて実現性も問われる。これから1年は沖縄の将来に大きな影響を与える正念場となる。玉城知事の手腕が試される。 

(梅田正覚)