筋力強化の成果実感 理想の走りを追求 女子車いすマラソン・喜納翼<憧憬の舞台へ>


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体力強化を目的にトラックを走り込む喜納翼=20日、沖縄市陸上競技場(新里圭蔵撮影)

 女子車いすマラソンT34/53/54クラスの日本記録保持者である喜納翼(30)=タイヤランド沖縄。東京パラリンピックの代表内定が有力視されるが、「あまり気にしていない」と、普段から東京パラに向けた思いはあまり口にしない。さらなる記録更新を優先目標に置き「今やるべきことをやるだけ」と足元を見詰める。日々の積み重ねが、大舞台での躍動につながることを実感しているようだ。

 20日午後7時すぎ、沖縄市陸上競技場。ライトに照らされたトラックを喜納の黒いレーサー(競技用車いす)がさっそうと駆けていく。普段は周囲まで明るくするような笑顔が印象的だが、レーサーに乗っている時の目つきは鋭い。

 昨年は年明けから半年をかけてパーソナルトレーニングも取り入れ、上半身をいじめ抜いた。コロナ禍で県内の競技場が閉鎖された時期もあったが、その分「ウエートトレーニングをがっつりできた」とより屈強な体を手に入れた。

 筋肉量を必要とするのには根本的な理由がある。バスケットボールをしていた大学1年時、トレーニング中の事故で下半身まひに。先天性の選手や幼少期に障害を負った選手に比べて骨格や筋肉が発達しており、身長170センチ超という高身長も相まって重さがある。そのため加速が必要なカーブの立ち上がりや上り坂を課題としてきた。

 8カ月ぶりのフルマラソンとなった昨年11月の大分車いすマラソンでは、苦手としてきた坂を「すんなり上れた」とトレーニングの成果を実感。結果は2位だったが「ウエートの時期を延ばして持久系の練習が間に合ってなかったので、全然順位は気にしていない。少しでも成果を見られる箇所があったのは良かった」と淡々と振り返る。

 ただ、増したパワーを効率良く車輪に伝える動きには満足していない。「付けた力を動作につなげていく方法を身に付けたら、また変わってくる感覚がある」と伸びしろを見詰める。重さ3キロのボールを使って頭上から両手で投げたり、壁で両手ドリブルをしたりして、ハンドリム(車輪の持ち手)に腕を落とす瞬間や後方で跳ね上げる時の瞬発力を磨いていた。

 さらに、今最も練習で注力するのが持久系だ。トラックでは約2時間をかけて30キロを走り込み、ロードでは40キロをこなす。次のフルマラソンの日程はまだ見通しが立っていないが「持久力の向上は時間がかかるので、少しずつ伸ばしていく。大会がいつきてもコンディションを整えられればいい」と柔軟に構える。

 現在、世界ランキングは4位。4月1日時点で順位を維持していれば東京パラの代表に内定する。競技を始めて8年目。短期間で国内トップに躍り出た日本のエースは「『もうきついな』という感覚はまだない。ここを改善すれば、という部分を突き詰める」と、理想の走りを追い求めていく。

 (長嶺真輝)